クレオの夏休みの映画専門家レビュー一覧

クレオの夏休み

2023年カンヌ国際映画祭批評家週間オープニング作品となった深い愛の物語。父親とパリで暮らす6歳のクレオは、乳母のグロリアが大好き。だがある日、グロリアは故郷アフリカへ帰ることに。夏休みを迎えたクレオは、グロリアに会うため、単身海を渡る。出演は、撮影当時5歳半で、演技未経験から偶然見出されたルイーズ・モーロワ=パンザニ。監督は、共同監督を務めた『Party Girl(原題)』でカンヌ国際映画祭カメラドールに輝き、本作が長編単独デビュー作となる新鋭マリー・アマシュケリ。
  • 俳優

    小川あん |クレオの夏休み

    一つ一つのシーンが幼きクレオの記憶として、大切に扱われている。秀逸なのは、映されるいくつかの手元のショット。洗濯物を畳む母親代わりのグロリアの手。しかし、そこにはいないはずの我が子たちの存在を強く感じさせる。クレオがグロリアの素肌を指で触れる。同様に、亡き母親の存在がある。それらのショットは言葉より強い仕草で愛情を示し、その深さの海図は印象的なアニメーションで表現される。グロリアとクレオの永遠の絆はカメラのフィルターを越えるほどの温もりを与えた。

  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子 |クレオの夏休み

    いわゆる「マジカル・ニグロ」(白人に都合よく奉仕する黒人キャラクター)のパターンになるのではと冒頭懸念したが、全然違う趣向の物語に。クレオはグロリアを実母のように慕うが、グロリアもその家族も、新しい子守が来れば他人になってしまう人々だ。クレオやグロリアから離れまいとするかのようなカメラ(ウニー・ルコントの「冬の小鳥」を思わせる)の親密さ。母親と過ごすはずの年月をクレオに奪われていた少年セザールの苛立ち。挿入されるアニメーションにも催涙効果あり。これはたまらん。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信 |クレオの夏休み

    パリの6歳の少女クレオが、アフリカ系の乳母グロリアが故郷に戻ることになり、彼女を訪ねてアフリカへの旅に出る。好奇心に満ち未知なるものとの出会いに一々興奮するクレオ役の少女が素晴らしく、劇映画とドキュメンタリーのいいとこどりをした高揚感とリアリティがある。願わくは、もう少しドラマ性があったほうが楽しめるのだろうが、そうなると映画が嘘っぽくなるのだろう。大まかな物語の筋はあるが、ほとんどドキュメンタルな現場感で作られている(ように見える)、フィクションとドキュメントの見事な交差点。ちょっとした映画の発明。

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