夏の終わりに願うことの映画専門家レビュー一覧

夏の終わりに願うこと

第73回ベルリン国際映画祭エキュメニカル審査員賞受賞、第96回アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストに選出されたメキシコの新鋭リラ・アビレスの長編2作目。病気で療養中の父の誕生日パーティーのため、祖父の家を訪ねた少女ソルの夏の1日を描く。ソル役は、映画初出演のナイマ・センティエス。
  • 映画監督

    清原惟

    少女の見ている世界がまるでドキュメンタリーのように繊細に描かれていた。音がとても印象的で、舞台となっている家の周りの空気や、家の中にたくさんの人が同時に動いている感覚が音によって表現されていた。女性たちのシャワーやトイレなどプライベートな場面がいくつかあり、そこに映っている親密さや人肌の温度みたいなものが、映画の全体に響いている。主人公の少女が、親戚の家で手持ち無沙汰になって落ち着かない様子を見ながら、私自身の子どもの頃にもあった感覚が蘇ってきた。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    公衆トイレでの母娘のあけすけな会話という意表を突く導入部から、すでに不穏な気配が漂う。祖父の家で重篤な病を患う父親の誕生日を祝うために集まった大家族。その特別であるはずの一日が奇妙な居心地の悪さを抱えた7歳の少女の視点を介して、断片的な世界そのものとして提示される。ドアの向こうにたしかにいるはずの父親との再会が絶えず遅延された果てに、ささやかなクライマックスが訪れる。何かとてつもなく豊かな世界に触れたという記憶のみが揺曳する稀有な映画体験である。

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