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- 山下敦弘
略歴 / Brief history
【不器用な人間をオフビートな笑いで包むヒューマニスト】愛知県生まれ。高校在学中より映像製作を始める。1995年、大阪芸術大学映像学科に進み、寮の先輩である熊切和嘉と出会い、同監督の卒業制作「鬼畜大宴会」(97)にスタッフとして参加。その時知り合った同期の向井康介、近藤龍人とともに、「夏に似た夜」(96)、「腐る女」(97)などの短編を製作。99年、卒業制作で初の長編16ミリ「どんてん生活」を完成させ、制作団体“真夜中の子供シアター”を立ち上げる。ダメ男ふたりの冴えない日常をおかしくも切なく綴り、2000年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門でグランプリに輝いたほか、国内外で一般公開された。東京国際映画祭の助成金をもとにプラネット+1と共同製作した第2作「ばかのハコ船」(02)は、再起を懸けた崖っぷちカップルを待ち受けるさらなる泥沼を、乾いた笑いで包み、その独特の世界観が各国の映画祭でも評判に。続く「リアリズムの宿」(03)では、つげ義春の漫画をベースに初の原作ものに挑み、個性と個性とが幸福な化学反応を起こした佳作とし、興行的にも成功を収める。血のつながらない兄妹の禁断の愛を繊細かつエロティックに描いた「くりいむレモン」(04)を挟み、05年に「リンダリンダリンダ」を発表。韓国の実力派女優ペ・ドゥナの好演も得て、ブルーハーツのコピーに打ち込む女子高生バンドの輝きを爽やかに捉えて新境地を開き、ロングランを記録。一躍、メジャー監督の仲間入りを果たす。07年には、凍てつく田舎町にうごめく人間模様をブラックに描写した「松ケ根乱射事件」を発表。同年、くらもちふさこの漫画を映画化した「天然コケッコー」では、学生時代よりコンビを組んできた向井に代わり、「ジョゼと虎と魚たち」(03)の渡辺あやが脚本を執筆。同じく田舎を舞台にしながらも「松ケ根乱射事件」とは真逆の牧歌的な青春映画に仕上げ、映像作家としての懐の深さを証明した。近年は、『深夜食堂』『上野樹里と5つの鞄』(09)など、テレビ作品の演出も手がけている。【ダメ男三部作からの飛躍】90年代末、熊切和嘉の登場に続き、プラネット+1系映画団体の支援を受け、本田隆一、宇治田隆史ら大阪芸大出身者を中心とした関西インディーズの潮流が台頭する。山下は熊切と並ぶその出世頭となった。第3作までは、いずれも大学時代の先輩の山本浩司が愛すべきダメ男役で主演。そのオフビートなリズム感や、笑いのセンスなどに共通性が見られることから、“ダメ男三部作”と称され、アキ・カウリスマキやジム・ジャームッシュになぞらえて評価する声もあった。ウェルメイドな「リンダリンダリンダ」「天然コケッコー」、負の美学が全開の「ばかのハコ船」「松ヶ根乱射事件」といった両作品群は、肌合いこそ違えど、人間本来のポジとネガな側面を山下流にアレンジした兄弟のような関係にあり、矛盾をも丸ごと肯定する、深い人間愛に満ちている。
山下敦弘の関連作品 / Related Work
作品情報を見る
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化け猫あんずちゃん
制作年: 2024気鋭のクリエイター久野遥子と、「カラオケ行こ!」の山下敦弘がW監督を務める異色アニメ。いましろたかしによる同名漫画を原作に「れいこいるか」のいまおかしんじが脚本を執筆。人間のように暮らす37歳の化け猫あんずと、父に捨てられた少女かりんの交流を描く。本作では実写で撮影した映像からトレースし、アニメーションにする『ロトスコープ』という手法を採用。実写班には山下監督を始め、実写映画界スタッフが集結し、映画撮影そのままの撮影を敢行。その映像や音声をもとに久野監督がアニメ化した。キャスト(声・動き)は「ほかげ」の森山未來、「1秒先の彼」の五藤希愛、「犯罪都市 NO WAY OUT」の青木崇高ほか。第77回カンヌ国際映画祭「監督週間」選出作品。 -
告白 コンフェッション
制作年: 2024福本伸行・原作&かわぐちかいじ・作画の同名漫画を山下敦弘が映画化したヒューマン・サスペンス。親友の浅井啓介とリュウ・ジヨンは、16年前に事故死した大学山岳部の同級生・西田さゆりの慰霊登山中に遭難。死を覚悟したジヨンは、自分がさゆりを殺したと浅井に告白するが……。出演は「渇水」の生田斗真、「あゝ、荒野 前篇/後篇」のヤン・イクチュン。 -
水深ゼロメートルから
制作年: 20242019年第44回四国地区高等学校演劇研究大会にて文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞した徳島市立高等学校の舞台を、「カラオケ行こ!」の山下敦弘監督が映画化した青春群像劇。女子高生4人がプール掃除をしながら話をするうちにそれぞれの悩みが溢れだし……。「アルプススタンドのはしの方」に続き、高校演劇舞台化プロジェクト第2弾を映画化。脚本は原作者・中田夢花が担当。商業演劇版にも出演した濱尾咲綺、仲吉玲亜、花岡すみれ、「モダンかアナーキー」の清田みくりらフレッシュな顔ぶれが揃う。 -
映画の朝ごはん
制作年: 2023長年にわたり映画やドラマの撮影現場で愛され続けてきた伝説の弁当屋『ポパイ』にフォーカスした異色ドキュメンタリー。ロケ撮影の定番の朝ごはん、ポパイのおにぎり弁当ができるまでの工程や、制作部による影の努力などを、様々なスタッフの証言を交えて映し出す。ナレーションを女優・歌手の小泉今日子が担当。沖田修一、黒沢清、瀬々敬久、樋口真嗣、山下敦弘といった映画監督たち、美術の磯見俊裕、俳優の内藤剛志など映画・ドラマに関わる様々なスタッフが出演。 -
1秒先の彼
制作年: 2023台湾アカデミー賞で作品賞、監督賞などを含む歴代最多受賞を果たした「1秒先の彼女」の日本版リメイク。何をするにも人より1秒早いハジメと1秒遅いレイカの、絶妙にタイミングが合わない「時差(タイムラグ)」ラブストーリー。監督・山下敦弘と脚本家・宮藤官九郎が初タッグを組み、男女の設定をオリジナルから反転させ、舞台を日本の京都に移した。W主演を務めるのは、ハジメ役の岡田将生とレイカ役の清原果耶。岡田将生は山下監督の「天然コケッコー」(07)では、都会から来たクールな中学生を、宮藤脚本のドラマ『ゆとりですがなにか』(16)では、コミカルでまじめなサラリーマンを演じたが、それらのキャリアが生かされた「残念なイケメン」を関西弁で演じた。清原は世間の速さになじめない、どこか「どんくさい」ヒロインを演じきった。