加藤剛 カトウゴウ

  • 出身地:静岡県榛原郡白羽村(現・御前崎市)
  • 生年月日:1938年2月4日
  • 没年月日:2018年6月18日

略歴 / Brief history

静岡県榛原郡白羽村(現・御前崎市)の生まれ。本名は表記は同じだが“たけし”と読む。父は地元の小学校の校長で、常に背筋が伸びていたという謹直な姿を見て育つ。都立小石川高校に進み、柔道部主将。学園祭の先輩の芝居を手伝ったのをきっかけに演劇に魅かれ、早稲田大学文学部演劇学科に入学、学内劇団の自由舞台で稽古に打ち込む。1961年、卒業と同時に俳優座養成所に12期生として入所。翌62年のTBS『人間の條件』の主人公・梶役に選ばれる。無色無名の存在を求めていたスタッフによる大抜擢で、約1年の撮影期間を梶になりきって夢中で過ごし、デビューとともに脚光を浴びた。同作を見た木下惠介監督に近代的な甘いマスクを気に入られ、「死闘の伝説」63のメインキャストに起用されて映画初出演。養成所は出席日数不足のため留年し、13期生で修了する。64年に俳優座に入団し、木下監督「香華」、野村芳太郎監督「五瓣の椿」と映画出演が続く。同年、日本映画製作者協会新人賞受賞。俳優座での初舞台は『ハムレット』65の傍役で、再び新人の素材の魅力を千田是也代表に買われて、安部公房・作『おまえにも罪がある』65で初の主役をつとめる。その後も、BC級戦犯容疑から逃げ続ける男を演じた家城巳代治監督「逃亡」65などを経て、小林正樹監督「上意討ち・拝領妻始末」67で三船敏郎と父子役で共演。主君の側室を妻として拝領、愛を育んだ矢先に召し上げられた侍・笠原与五郎の憤怒のさまが高く評価される。一方、野村芳太郎監督「影の車」70ではボソボソ小声で話す勤め人に扮して小心者のエゴを卓抜に表現するなど、着実に実力を発揮した。この間の68年、女優・声優の伊藤牧子と結婚。テレビドラマでは、迫力ある殺陣が評判のフジテレビの時代劇『三匹の侍』に64年からレギュラー出演し、浪人・橘一之進役が人気を呼ぶ。さらに70年、江戸南町奉行・大岡越前守忠相役で主役を張ったTBS『大岡越前』がスタート。これが99年まで30年間に渡って続く長寿ドラマに育ち、弱きを救う名奉行・大岡は全国の老若男女に愛されるキャリア随一の当たり役となる。72年には、三浦哲郎原作、熊井啓監督の「忍ぶ川」に主演。企画成立に10年以上かけた熊井監督の情熱に打たれ、栗原小巻演じる料亭の娘・志乃を愛する大学生・哲郎役を真摯に好演し、自身の誠実な人柄とあいまって清廉な熱意の人物のイメージを決定づけた。フジテレビ『剣客商売』73の秋山大治郎役もそれを踏まえて好評だったが、松本清張原作、野村芳太郎監督の大作「砂の器」74では一転して、暗い過去を揉み消す音楽家・和賀英良役。しかし、野心のために殺人を犯す卑劣より、宿命に縛られてあがく男の悲劇のほうを際立たせた熱演は独壇場といえるもので、映画における代表作とする。76年、NHK大河ドラマ『風と雲と虹と』に平将門役で主演。平安中期に乱を起こした将門を貴族社会の世を糺す青年革命家と捉え直して反響を呼ぶ。テレビドラマの大作で反逆の立場となっても己の義を通す人物を堂々と演じ、歴史に新たな光を当てる取り組みは、この時期の大きな収穫となる。テレビ朝日『蒼き狼・成吉思汗の生涯』80のジンギスカン、TBS『関ケ原』81の石田三成などもこれに続く。山田太一脚本のNHK大河ドラマ『獅子の時代』80では薩摩藩士・刈谷嘉顕役。明治新時代の理想に燃え志半ばで斃れる刈谷を通して、歴史のうねりと闘う個人の燃焼を見事に表現する。映画では等身大の役が多く、今井正監督「子育てごっこ」79で栗原小巻と夫婦役で共演、地方の分校教師の朴訥さに味を出す。木下惠介監督「父よ母よ!」80では非行問題を取材する記者役。木下とはデビュー以来恩師と慕う間柄で、「この子を残して」83、「新・喜びも悲しみも幾歳月」86で続けて主演する。映画の主要作はほかに、森川時久監督「次郎物語」87、栗山富夫監督「ハラスのいた日々」89など。80年代は特に舞台の活躍がめざましく、山本有三・作『波・わが愛』を自身の提案で82年に初演。夏目漱石の『門・わが愛』83、『心・わが愛』87と好評を続けて俳優座に日本の近代文学路線を敷く。91年に“わが愛三部作”を一挙上演し、紀伊國屋演劇賞と芸術選奨文部大臣賞を受賞。その後もナチスの時代に教え子ともに死ぬことを選んだ『コルチャック先生』95が新たな当たり役となり、父と同じ教育者の人生を演技の中で生きる。2001年、俳優座創立55周年記念作品の小野田嘉幹監督「伊能忠敬・子午線の夢」で、徒歩による実測で初の日本地図を作った伊能忠敬を99年の舞台版に続いて演じ、若松節朗監督「沈まぬ太陽」09で総理大臣、NHK『坂の上の雲』09~11で伊藤博文を演じるなど、登場するだけで画面に品格をもたらす凛とした存在であり続ける。ふたりの息子はともに俳優となり、夏原遼、頼三四郎の芸名で活動中。01年紫綬褒章、08年旭日小綬章受章。2018年6月18日、胆囊(たんのう)がんにより死去。享年80歳。

加藤剛の関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • 今夜、ロマンス劇場で

    制作年: 2018
    「海街diary」の綾瀬はるかと「ナラタージュ」の坂口健太郎がW主演を務めるラブストーリー。映画監督を夢見る青年・健司は、通い慣れた映画館で長年憧れていたスクリーンの中のお姫様・美雪と出会う。二人は次第に惹かれ合っていくが美雪にはある秘密があった。「信長協奏曲(ノブナガコンツェルト)」の宇山佳佑によるオリジナル脚本を、「テルマエ・ロマエ」シリーズの武内英樹が監督。共演は「少女」の本田翼、「無限の住人」の北村一輝、「超高速!参勤交代 リターンズ」の中尾明慶、「22年目の告白 私が殺人犯です」の石橋杏奈、「武曲 MUKOKU」の柄本明、「舟を編む」の加藤剛。音楽を「沈まぬ太陽」「アンフェア」シリーズの住友紀人が手がける。
    90
  • 舟を編む

    制作年: 2013
    2012年本屋大賞で大賞を獲得し、2012年文芸・小説部門で最も販売された三浦しをんの『舟を編む』(光文社・刊)。言葉の海を渡る舟ともいうべき存在の辞書を編集する人々の、言葉と人に対する愛情や挑戦を描いた感動作を、「剥き出しにっぽん」で第29回ぴあフィルムフェスティバルグランプリを受賞、「川の底からこんにちは」が第60回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に招待されるなど国内外から評価される石井裕也監督が映画化。言葉に対する抜群のセンスを持ちながら好きな人へ思いを告げる言葉が見つからない若き編集者を「まほろ駅前多田便利軒」の松田龍平が、若き編集者が一目惚れする女性を「ツレがうつになりまして。」の宮崎あおいが演じる。
    90
  • いのちの山河 日本の青空II

    制作年: 2009
    地方行政から見放され多くの問題を抱えていた山あいの小さな村の人々が、その苦難に立ち向かう姿を描いた実話の映画化。監督は『日本の青空』の大澤豊。出演は「さまよう刃」の長谷川初範、「おと・な・り」のとよた真帆、「沈まぬ太陽」の加藤剛、「HAZAN」の大鶴義丹、「あずみ2 Death or Love」の宍戸開、「島田洋七の佐賀のがばいばあちゃん」の小林綾子など。
  • 沈まぬ太陽

    制作年: 2009
    「白い巨塔」「華麗なる一族」などの人気作家・山崎豊子の同名小説を「ホワイトアウト」の若松節朗が映画化した社会派ドラマ。巨大企業に翻弄されながらも自らの信念を貫き通す男の姿を描く。出演は「硫黄島からの手紙」の渡辺謙、「ヘブンズ・ドア」の三浦友和、「余命」の松雪泰子、「ぼくとママの黄色い自転車」の鈴木京香、「私は貝になりたい(2008)」の石坂浩二など。
  • 日本の青空

    制作年: 2007
    日本国憲法誕生の真実を、豪華出演者で描く歴史ドラマ。
  • アダン

    制作年: 2005
    若くして天才と呼ばれながら独学で画業に励み、晩年は奄美大島に渡った孤高の画家・田中一村の半生を描いた伝記ドラマ。監督は「HAZAN」の五十嵐匠。出演は、「HAZAN」でも五十嵐監督と組んだ榎木孝明。