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韓国を代表する俳優たちの共演で、前代未聞のテロ事件に巻き込まれた乗客や、地上で彼らを助けようとする人々の運命を見守るパニック・アクション「非常宣言」が6月2日、Blu-ray&DVDがリリースされた。航空機内と地上で予想もしなかった困難が次々と起こり、先の読めない展開で見るものを引き込む本作の魅力に迫った。 コロナ禍を彷彿とさせるパニック・アクション 娘と共にハワイ行きの航空機に搭乗したパク・ジェヒョクは空港内で出会った怪しい男が同じ便に乗ったことを知り、不吉な予感を覚える。離陸後、トイレを利用した乗客の体調が急変。やがてそれが致死率の高いウイルスを使ったテロであることがわかり、乗務員や乗客たちの間に恐怖が広がる。一方、航空機テロの予告動画をアップした犯人を捜査していた刑事ク・イノはターゲットとなった航空機に妻が搭乗していることに気づく。 航空機という閉鎖された空間の中に撒き散らされたウイルスが乗客たちを恐怖へと陥れる本作。ウイルスが乗客だけでなく、乗務員や操縦士までも襲っていくため「正常な飛行を続けていけるのか?」というスリルもプラス。さらに、機内にいる妻の身を心配しながらウイルスの正体を突き止め、治療薬を見つけようとする刑事イノと、政府を代表し、最小限の被害で収めるための道を探る国土交通大臣キム・スッキが奔走する地上の様子も並行して描かれ、緊迫感を高める。 監督は検察という組織に属する人々の視点から韓国の現代史を描いた「ザ・キング」(17)のハン・ジェリム。今作はコロナ禍以前から企画していたということだが、閉ざされた空間の中で人間を媒介に広がっていくウイルス、危険を恐れて感染者たちを国内に入れようとしない各国の対応など、コロナ禍の現実と重なる描写に驚かされる。 韓国を代表する俳優たちの共演 手に汗握る展開に加えて本作の見どころとなっているのは、豪華な俳優たちの共演だ。ドラマの中心となるのは、アトピー性皮膚炎に悩む娘のため、苦手な飛行機に乗ることになったジェヒョク役のイ・ビョンホン。韓国映画はもちろん、「マグニフィセント・セブン」(16)などのハリウッド大作にも出演経験のある彼が、隠していた能力を徐々に発揮していく男の変化を説得力のある演技で見せていく。彼が見かける不審な乗客役はボーイズグループZE:Aのメンバーで「名もなき野良犬の輪舞」(17)など、俳優としても活躍するイム・シワン。少年のような無垢な顔の奥に秘めた邪悪さが不気味だ。さらに、飛行機の操縦を担う副機長ヒョンスを「感染家族」(19)のキム・ナムギルが熱演。ジェヒョクとは旧知の人物で、ふたりの間のやりとりも見応えがある。また、冷静な態度で乗務員や乗客に対し続けるチーフパーサーのヒジン役で「ザ・キング」で好演したキム・ソジンも顔を見せている。 一方、地上で奮闘する刑事イノを演じているのは、「パラサイト 半地下の家族」(19)のポン・ジュノ監督の盟友として知られ、是枝裕和監督と組んだ「ベイビー・ブローカー」(22)でカンヌ国際映画祭男優賞も受賞したソン・ガンホ。刑事としての使命と妻への思いに突き動かされながら、捜査を続けていく。そんな彼の献身的な態度に感銘を受け、自らも問題解決のために動く大臣キム・スッキ役は、07年の「シークレット・サンシャイン」でカンヌの女優賞に選ばれ、今年はドラマ『イルタ・スキャンダル〜恋は特訓コースで〜』や「キル・ボクスン」で実力を発揮しているチョン・ドヨン。映画ファンとしては「シークレット・サンシャイン」で共演した彼女とソン・ガンホが、まったく違うキャラクターに扮して言葉を交わすシーンに感慨を覚える。 特典映像には貴重なメイキングも収録 韓国で初めての航空パニック映画を手がけるにあたり、ハン・ジェリム監督は6ヶ月にわたる入念な準備期間を経て撮影を行ったとのこと。特に、撮影用のコンテ作りには時間をかけ、キャストやスタッフに自らが望む映像のイメージを伝えていった。Blu-rayに収録されている特典映像の中では、海外から本物の飛行機を空輸して作られた実物大のセットを使った撮影の様子がわかる貴重なメイキング映像も登場。機体が360度回転するという驚きのシーンがどのように撮影されたのかをじっくりと見ることができる。ちなみに今作の美術を手掛けているのは、疾走する特急列車が舞台の「新感染 ファイナル・エクスプレス」(16)も担当したイ・モクウォン。これまでの経験をもとに、さらなるチャレンジを見せている。特典映像にはそのほか、キャストたちのインタビューも収録。緊張感の途切れない内容ながら、実力者同士が刺激を与え合う、楽しい現場だったことが語られている。 飛行機を使った移動が日常茶飯事となった現代に生きる私たちにとって、いつ直面してもおかしくない設定の中で、最後まであきらめない人々の姿をダイナミックに見せる「非常宣言」。旅行シーズンを前に、映画でしか経験できないフライトに挑戦してみてほしい。 文=佐藤結 制作=キネマ旬報社 https://www.youtube.com/watch?v=r1mlCmyJuKU&t=20s 「非常宣言」 ●6月2日(金)Blu-ray&DVD発売 ▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray 豪華版:6,380円(税込) 【封入特典】 初回限定特典:ポストカード(4枚セット) 【映像特典】 メイキング/韓国版キャラクタートレイラー(韓国語字幕)/海外版予告/日本語予告/キャスト・キャラクター紹介/S#65 ストーリーボード集 ●DVD:4,400円(税込) 韓国版キャラクタートレイラー(韓国語字幕)/海外版予告/日本語予告 ※ジャケットは仮のものになります ●2022年/韓国/本編141分 ●監督・脚本:ハン・ジェリム ●美術:イ・モクウォン ●出演:ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ドヨン、キム・ナムギル、イム・シワン、キム・ソジン、パク・ヘジョン ●発売元:クロックワークス 販売元:ハピネット・メディアマーケティング © 2022 MAGNUM9, C-JES ENTERTAINMENT, CINEZOO AND SHOWBOX ALL RIGHTS RESERVED.
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2000年にロシアで実際に起きた原子力潜水艦クルスクの爆発・沈没事故と、救助をめぐる顛末を、トマス・ヴィンターベア監督により映画化した「潜水艦クルスクの生存者たち」のBlu-rayが6月2日に発売。未曽有の事故をめぐり、残された時間に翻弄された生存者、彼らの救出に乗り出す者、そして無事を祈る家族を描いた本作の見どころを解説する。 多国籍キャスト&スタッフがロシアの惨事を描く ムルマンスクに司令部を置くロシア海軍北方艦隊。軍事演習のためバレンツ海を進んでいた原子力潜水艦クルスクだったが、搭載した魚雷が突如爆発する。冷戦以後の国力衰退に起因する整備不良と劣化、および前兆を察知しながら柔軟に対応しない官僚的判断が招いた、半ば人災だ。沈没し、浸水が進むクルスクで、わずか23名の生存者は救助を待つことに──。 生存者のひとりであり、仲間を鼓舞しながら希望を繋ぐ司令官ミハイルを演じるのはマティアス・スーナールツ。その妻であり、政府の緩慢な対応に不安と怒りを募らせるターニャ役にレア・セドゥ。事故を察知して救助支援を申し出るイギリス海軍准将デイビッド・ラッセル役にコリン・ファース。乗組員の命よりも軍事機密と国家の威信を優先し、海外支援を受け入れようとしない政府側の代表者というべきペトレンコ指令長官役にマックス・フォン・シドー。ミハイルの同僚アントン役にアウグスト・ディール。 さらに監督はトマス・ヴィンターベア、製作会社はヨーロッパ・コープ。見事なまでに当事国ロシアではない、欧州西側諸国の映画人たちが集結した(その出身国はベルギー、フランス、イギリス、スウェーデン、ドイツ、デンマーク等々)。そうして映画を完成させたのも、国家の軍事的枠組みを超えて語るに値する、愛と誇りと献身、すなわち普遍的ヒューマニティの実話があったからだ。 ニュースで事故の概要を知り、同情的な定型句で飾るのはたやすい。だが人物たちの表情と息づかいを目の当たりにさせる映画によって、私たちは遠い国の災難ではなく、隣人の痛みとして共有する。時に取り乱しながらも勇敢に対処するミハイルたちの覚悟、そしていよいよ命運が尽きかけた時にこそ、優雅に晴れやかに、最後の生を謳歌する開き直りの気高さには感動する。また、ともに救助を急ごうとするロシアのグルジンスキー大将とイギリスのラッセル准将の絆にも心を奪われる。海の軍人のプライドで結ばれたふたりに、国籍の違いなど関係ない。もちろん、夫たちの帰還を願いながら声を上げる妻たちも。それをのらりくらりとかわすのは、軍服を冷水で濡らすことなく悠然と構えた上官たち。もちろん観る者は怒りを覚えるが、ひょっとしたら彼らも何らかの意味で犠牲者なのかもしれない。 マクロとミクロの交差 特典映像の「潜水艦クルスクの乗組員たち」は、キャストにフォーカスしたもの。凛々しい軍服姿でインタビューに応じるミハイル役のマティアス・スーナールツは、「マクロな政治的思惑と、ミクロな艦内の出来事」が交差した物語だと説明する。マクロとミクロをはじめ、さまざまなコントラストは確かに印象深い。白い陽光が拡散した北国の町と、死の闇が迫る海底。鯨のように巨大なクルスクと、それに呑まれたような矮小な人間。妻と子が触れる大自然の広がりと、夫が向き合うメカニカルな艦内の閉塞感。そうした視覚的な豊かさを得るのに、少なからぬ技術力と努力を要したことは想像に難くない。撮影における挑戦と苦労、達成については、特典映像「潜水艦クルスクの心臓部」で撮影監督のアンソニー・ドッド・マントルが語っているので、メイキング映像と併せて注目したい。 異なる《時間》スケールが溶解する キャストからスタッフまで多くの名前が登場したが、いまひとり重要なのは、脚本家のロバート・ロダットだ(「プライベート・ライアン」などで知られる)。今回のシナリオで軸としたのは、おそらく《時間》。ミハイルの息子ミーシャが浴槽で挑戦する素潜りは57秒、ミハイルの同僚パヴェルが結婚式で花嫁と交わす口づけは20秒、クルスクに囚われた者たちが生存を知らせるためにハンマーを打ち鳴らすのは正時、艦内の酸素が持つのはあと2〜3分──。パヴェルの挙式代を捻出するために《時計》を売ってしまったミハイルは、そうした《時間》の物語に余儀なく翻弄されていく。 ミハイルと仲間のひとりが、酸素カートリッジを探すため、艦内の浸水した区画を素潜りで巡るシーンは象徴的だ。息が切れるまでというタイムリミットの短さと、その一部始終をカットせずにワンショットで撮っていく長さ。ここに《時間》の2つのスケールが交わる。 ミハイルが手放した《時計》は、やがて息子のミーシャが引き継ぐことになろう。その針が1秒ごとに刻む小さな《時間》と、“時計の継承”という物語の大きな《時間》。ここでもミクロとマクロの対比さながらのスケール交錯が起き、世界はもはや《時間》の統制から解放されたかのようだ。だからもう、不可能は何もない。万策尽きたミハイルの前に、息子のミーシャは幻となって泳ぎ着く。海の男たちは永遠となる。映画の流儀で彼らを追悼する。 文=広岡歩 制作=キネマ旬報社 https://www.youtube.com/watch?v=prwa4edRzDM 「潜水艦クルスクの生存者たち」 ●6月2日(金)Blu-ray発売(レンタルDVD同時リリース) ▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray:5,280円(税込) 【映像特典】 「潜水艦クルスクの乗組員たち」キャストインタビュー&メイキング映像/「潜水艦クルスクの心臓部」監督・撮影監督インタビュー&特撮メイキング映像/劇場予告編 ●2018年/ルクセンブルク/本編117分 ●監督:トマス・ヴィンターベア ●脚本:ロバート・ロダット ●出演:マティアス・スーナールツ、レア・セドゥ、マックス・フォン・シドー、コリン・ファース ●発売元:キノフィルムズ/木下グループ 販売元:ハピネット・メディアマーケティング © 2018 EUROPACORP
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「エドワード・ヤンの恋愛時代 4Kレストア版」予告編と濱口竜介監督のコメント到着
2023年6月2日巨匠エドワード・ヤンが台北を舞台に描いた青春群像劇「エドワード・ヤンの恋愛時代」(1994)が、4Kレストア版で復活。8月18日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかで全国公開される。予告編、ポスタービジュアル、濱口竜介監督のコメントが到着した。 急速な西洋化と経済成長を続ける1990年代前半の台北。経営する会社の業績がすぐれないモーリーは、婚約者アキンとの仲も不調。親友のチチはモーリーの仕事ぶりに振り回され、恋人ミンとの雲行きが怪しい……。モーリーとチチを主軸に、同級生、恋人、姉妹、同僚ら男女10人による2日半のドラマが展開。情報の氾濫する大都会で見失った目的を、それぞれもがきながら新たに見出していく姿を描く、エドワード・ヤンの野心作だ。 濱口竜介監督コメント 必然的に人間性を失わせるこの社会で、人はいったいどう生きていくのか。 『恋愛時代』は希望を描き出す。深い絶望の後にしか訪れない希望を。 エドワード・ヤンは「どうしたら私たちはこの社会で、他者とともに生きていけるのか」という問いを決して投げ出さなかった。 彼の映画にいつまでも敬意と愛を抱かずにおれないのは、そのためだ。 「エドワード・ヤンの恋愛時代 4Kレストア版」 監督・脚本:エドワード・ヤン 出演:ニー・シューチュン、チェン・シァンチー、ワン・ウェイミン、ワン・ポーセン 原題:獨立時代 英題:A Confucian Confusion 字幕翻訳:樋口裕子 日本語字幕協力:東京国際映画祭 1994年/台湾/1:1.85/5.1ch/129分 配給:ビターズ・エンド © Kailidoscope Pictures 公式サイト:www.bitters.co.jp/edwardyang2023 -
ハロウインの夜に起きた9人連続殺人事件。犯人の遺体が行方不明となって1年後、死んだはずの殺人ピエロ“アート・ザ・クラウン”が再び夜の街に現れ、前年よりもさらに残酷な血まみれのハロウィン・パーティを開始する……。2019年にDVD発売され容赦ない残酷さが物議を醸した「テリファー」の続編がついに公開。さすがにこれはやりすぎではないかとさえ感じる、キモく、むごく、グロいシーンが満載だ。「全米が吐いた!?」という宣伝コピーもけっして大げさではない。トラウマ必至の超残酷映画に、あなたは劇場でどこまで耐えられるだろうか。 本当に吐き気が……残酷殺人描写で退席者が続出! 白と黒のツートンのマスクと衣装に身を包み、黒いゴミ袋を背負ったピエロ、アート・ザ・クラウンのいでたちはいかにも安っぽい。仕事をなくした老俳優がやけっぱちで街頭宣伝のアルバイトをしているような貧しい姿だ。だが、大げさな作り笑顔で近づく彼を哀れに思い、お情けで声などかけた人間は最悪の拷問殺人のいけにえにされる。 言葉を発せず、コミカルなパントマイムを絶え間なく続けるサイレント・キラーは想像を絶する方法で人間の身体をズタズタに切り刻み、グロテスクに破壊する。狙われた女性は頭の皮を剥がれ、顔面をショットガンで撃ち抜かれ、美貌を台無しにされる。大量の血のりでモノトーンの衣装を赤く染め、人を切り裂くたびに嬉しそうに歯茎をむきだすアート・ザ・クラウン。直視できない場面の連続に、海外の上映では途中で席を立つ観客が後を絶たなかったという。 500万円映画からスタート。興収1500万ドルの成功へ 「バットマン」シリーズにおけるジョーカー、スティーヴン・キング原作「IT」におけるペニーワイズ。いわゆる殺人ピエロ、キラー・クラウンはホラー系作品の定番悪役として脈々と描かれてきた。それは大作ばかりではなく、B級ホラーにも数多く登場する。低予算映画に採用される理由は、クリーチャー造形にコストがかからないためだろう。そのぶんキャラクターの設定や演技力が映画の完成度を左右する。その面で低予算映画「テリファー 終わらない惨劇」は成功した。ハロウイン・シーズンに続々と公開された大作ホラーを打ち負かし興行戦争で下剋上。殺人鬼アート・ザ・クラウンは人気クリーチャーへとブレイクした。 日本でもDVDストレートだった前作「テリファー」(2016)はわずか35000ドル(約500万円)で製作。ホラー映画は世界流通するコンテンツだが、同作は劇場公開の機会が少なく、DVDやネット配信中心のリリースだった。しかし80年代スプラッター映画を思い出させる画面構成やリミッターをはずした残酷描写、そして何よりその“怖い人(テリファー)”感がトラウマになるアート・ザ・クラウンのキャラの成功でカルト・ホラーとして話題になり、続編のアナウンス後に実施された制作費のクラウドファンディングには予定の5倍、25万ドルもの寄付が集まった。2022年のハロウインに全米公開された「テリファー 終わらない惨劇」(原題『Terrifier2』)の最終的な興収は制作費の30倍以上、1500万ドルに及んだ。暴力的シーンのために成人向けにレイティングされたインディーズ・ホラーとしては異例のヒットである。 10年以上かけ研ぎ澄ませた殺人狂キャラクター、成功への道 最悪の殺人ピエロ、アート・ザ・クラウンは監督のダミアン・レオーネが10年以上にわたり手塩にかけたキャラクターだ。初めての登場は2008年、レオーネ監督の初監督短編「The 9th Circle」(11分)だった。その後、プロトタイプとなる短編版「Terrifier」(2011/28分)を完成させ、前作にあたる長編版「テリファー」で世界に発見される。そして2022年、本作でついにアート・ザ・クラウンは世界のスクリーンでスターになった。 その成功には、前作からアート・ザ・クラウンを演じたデイビット・ハワード・ソーントンの起用も大きかった。本格的にパントマイムを学んだ経験をもつソーントンは、お決まりのピエロ的しぐさと白いマスクからわずかにのぞく視線だけで、殺人狂にオリジナルな肉付けをした。耐えられない悪魔的キャラクターも、その成功を支えるのはあくまで演技の積み重ねなのだ。「悪魔のいけにえ」のレザーフェイスや「13日の金曜日」のジェイソンなど、仮面の奥の表情を見せない悪役は恐ろしい。だがアート・ザ・クラウンはその逆だ。ピエロとして表情を誇張するほど、笑顔の意味は逆転し、残忍で不気味な気配が増幅される。おそらくソーントンは「エルム街の悪夢」シリーズでフレディを演じたロバート・イングランドのように、仮面の下の名優としてホラー映画史に名を残すだろう。禁じ手かもしれないが、「~終わらない惨劇」を最後まで観て、胸クソ感でもいいから何かが心に残ったら、ぜひ中の人、D・H・ソーントンのポートレートを検索してほしい。腰が抜けるほど普通の好男子の顔がそこにあるから。それが映画のマジックなのである。 最悪の残酷描写の中、スプラッター映画のお約束、ファイナル・ガール(最後に生き残る美女)シエナを演じるローレン・ラベラのファンタジー映画のようないでたちと勇敢さが、どうにか救いのあるエンディングにした。だが、はたして惨劇はこれで終わりなのか? 耐えられるなら、ぜひ最後の最後まで観続けてほしい。 本作は映画に純粋な感動を求める人にはあえて薦めないが、勇気を出して観ることであなたの内側の何かが変わるかもしれない。冒険を求める男女なら、あえてデート用にチョイスもアリだ。劇的に関係が進展する……かもしれないから。 文=藤木TDC 制作=キネマ旬報社 https://www.youtube.com/watch?v=Z4cqPgmkrgo&t=1s 「テリファー 終わらない惨劇」 ●2022年・日本・138分 R18+ ●監督・脚本:ダミアン・レオーネ ●出演:ジェナ・カネル、ローレン・ラベラ、デイビット・ハワード・ソーントン、キャサリン・コーコラン、グリフィン・サントピエトロ ●配給:プルーク、OSOREZONE ●配給協力:シンカ ◎6月2日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開 ©2022 DARK AGE CINEMA LLC. ALL RIGHTS RESERVED ▶公式サイトはこちら
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世界の女性映画人による短編集「私たちの声」。杏のナレーションによる予告編到着
2023年6月1日各国の女性監督と女優が集結し、女性が主人公の7つの短編を紡いだアンソロジー「私たちの声」が、9月1日(金)より新宿ピカデリーほかで全国公開。そのうち呉美保監督作「私の一週間」に主演する杏がナレーションを担当した予告編、ならびに場面写真が到着した。 ジェニファー・ハドソン主演の「ペプシとキム」は、ある出来事が原因で生まれた自身の別人格・ペプシと戦う女性キムの物語。マーシャ・ゲイ・ハーデン&カーラ・デルヴィーニュ主演の「無限の思いやり」は、コロナ禍のロサンゼルスを舞台に、若いホームレスと医師の交流を描く。 エヴァ・ロンゴリア主演の「帰郷」は、主人公が亡き妹の遺した姪と心を通わせていくヒューマンドラマ。杏主演の「私の一週間」は、子育てと仕事に追われるシングルマザーの日々と家族の素晴らしさを見つめる。マルゲリータ・ブイ主演の「声なきサイン」は、犬の飼い主の異変に気づいた獣医が奮闘。 ジャクリーン・フェルナンデス主演の「シェアライド」は、裕福な女性がトランスジェンダー女性と友情を築き、新しい世界を知っていく物語。アニメーションの「アリア」は、怖がらずに常識を破り、自我を見つけていく勇敢な主人公を描く。 [caption id="attachment_25630" align="aligncenter" width="850"] 「ペプシとキム」[/caption] [caption id="attachment_25631" align="aligncenter" width="850"] 「無限の思いやり」[/caption] [caption id="attachment_25632" align="aligncenter" width="850"] 「帰郷」[/caption] [caption id="attachment_25633" align="aligncenter" width="850"] 「私の一週間」[/caption] [caption id="attachment_25634" align="aligncenter" width="850"] 「声なきサイン」[/caption] [caption id="attachment_25635" align="aligncenter" width="850"] 「シェアライド」[/caption] [caption id="attachment_25636" align="aligncenter" width="850"] 「アリア」[/caption] 「私の一週間」Story アヤとトワという2人の子を育てるシングルマザー、ユキの毎日は忙しい。朝食を作り、洗濯し、掃除機をかけ、アヤを小学校へ送り出した後にトワを保育園へ送り届け、経営する弁当屋へ。夕方には子どもを習い事に連れて行き、帰宅すると夕食を作り、風呂に入れ、寝かしつけた後、新しい弁当のメニューを考え、日が変わった頃に眠りにつく……。 「私たちの声」 監督:タラジ・P・ヘンソン、キャサリン・ハードウィック、ルシア・プエンソ、呉美保、マリア・ソーレ・トニャッツィ、リーナ・ヤーダヴ、ルチア・ブルゲローニ&シルヴィア・カロッビオ 出演:ジェニファー・ハドソン、マーシャ・ゲイ・ハーデン、カーラ・デルヴィーニュ、エヴァ・ロンゴリア、杏、マルゲリータ・ブイ、ジャクリーン・フェルナンデス 2022年/イタリア、インド、アメリカ、日本/英語、イタリア語、日本語、ヒンディー語/112分/カラー/原題:Tell it like a woman 製作・企画・プロデュース:WOWOW 配給:ショウゲート ©2022 ILBE SpA. All Rights Reserved. watashitachinokoe.jp ▶︎ 世界の女性映画人による短編集「私たちの声」の主題歌がアカデミー賞ノミネート。短編の1編に参加した杏と呉美保監督が授賞式に出席!