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「プロのライターが選ぶ、2021年の“推し”ネトフリ韓国ドラマ〈後編〉」
2022年2月17日「プロのライターが選ぶ、2021年の“推し”ネトフリ韓国ドラマ10作!〈後編〉」 今年もNetflixにて話題の韓国ドラマがたくさん配信されていますが、まだ昨年の人気シリーズをチェックしきれていないという方も多いはず。そこで今回は、2021年にNetflixで配信された韓国ドラマから、プロのライターが選んだ厳選10作をプロのライターのコメントと共に一挙紹介します! 【こちらでは後半5作を紹介します】 →「プロのライターが選ぶ、2021年の“推し”ネトフリ韓国ドラマ10作!〈前編〉」はこちら 1. 悪には悪で立ち向かうフルスロットルエンタメ『ヴィンチェンツォ』 Netflixシリーズ『ヴィンチェンツォ』独占配信中 『ヴィンチェンツォ』の作品紹介 マフィアの顧問を務める韓国系イタリア人の弁護士が、母国で繰り広げる壮絶な戦いを描いた一大エンタテインメント。ソウルの地下に埋められた金塊を手に入れるため韓国に戻ったイタリアンマフィアの顧問弁護士が、悪事に手を染める大企業との法廷闘争に巻き込まれていく。ソン・ジュンギ扮するヴィンチェンツォ・カサノが、ベテランで堅物の弁護士と共に、莫大な富と利権を握る巨大組織に正義の鉄槌を下すため、悪で悪を成敗するというスリリングな展開で老若男女の中毒者を生んだ傑作。 『ヴィンチェンツォ』のライターおすすめコメント ノワールもメロも人生ドラマも、フルスロットルで駆け抜けた傑作。 度肝を抜かれる演出や心憎い小ネタ、毎話おなじみタイトルロゴまでハマりました!(堀由希子氏) 2.夫婦の不協和音をスキャンダラスに綴った人気作『結婚作詞 離婚作曲』 Netflixシリーズ『結婚作詞 離婚作曲』シーズン1~2独占配信中 『結婚作詞 離婚作曲』の作品紹介 ラジオ番組の制作に携わり充実した毎日を送っていたはずの30代、40代、50代の魅力的な3人の女性の予期せぬ不幸に関するアクシデントの物語と、その中で本当の愛を見つけていく夫婦の不協和音を綴ったマクチャンドラマ。不倫などの刺激的な題材で視聴者をくぎ付けにして、シーズン1、シーズン2が配信中、2022年にはシーズン3が編成予定の人気シリーズ。人気俳優ソンフンが弁護士の夫に扮し、妻以外の女性に心を奪われてしまう男性を演じて話題を集めた。 『結婚作詞 離婚作曲』のライターおすすめコメント 狡猾な夫、図太い不倫相手、息子に色仕掛けをする継母。 異色なキャラばかりだけどセリフはグサッと心を刺す。さすが名脚本イム・ソンハンの魔力。(野田智代氏) 3. 時空を超越したSFサスペンス大作『シーシュポス: The Myth』 Netflixシリーズ『シーシュポス: The Myth』独占配信中 『シーシュポス: The Myth』の作品紹介 10年前に亡くなった兄の死の真相を追う天才工学者ハン・テスルと、彼の命を守り、世界を救うために未来からやって来た女性、カン・ソヘの戦いを描く時空を超越したSFサスペンスドラマ。この世界にはびこる“密入国者”という敵か味方かも分からない謎の存在を知り、真実に導かれることになるテスルには名優チョ・スンウが、そして彼を守る男性顔負けの戦闘能力をほこる謎の女戦士・ソヘには人気女優パク・シネが扮する。運命共同体の2人の危険な旅から目が離せない。 『シーシュポス: The Myth』のライターおすすめコメント 時間のルールから脱する、滅亡の危機を救う点で「TENET テネット」と比肩するクオリティ。 舞台を朝鮮半島に限ったことで、情、社会性といった韓国作品らしさが出ている。(地畑寧子氏) 4. 境遇も性格も違う男女のケミストリー『それでも僕らは走り続ける』 Netflixシリーズ『それでも僕らは走り続ける』独占配信中 『それでも僕らは走り続ける』の作品紹介 決められたコースを走り続けてきた陸上界の有望選手が、ひとりの翻訳家との出会いをきっかけに、初めて自分のペースで、心のままに人生を走り始める物語を描いたラブロマンス。陸上短距離の韓国代表選手で、国会議員の父とトップ女優の母を持つという重圧の中で生きる御曹司を人気俳優イム・シワンが演じ、幼い頃に両親を亡くし、大好きな映画を字幕なしで見続けて字幕翻訳家となった女性をシン・セギョンが演じている。性格も境遇も全く違う男女が少しずつ惹かれ合っていく様に、ためいきが漏れること必至。 『それでも僕らは走り続ける』のライターおすすめコメント 劇的なことは起きないが、それ故登場人物が身近に感じられ、彼らの日常や恋模様が気になってくる。 何より魅力ある彼らに向けた愛ある眼差しがいい。(小田香氏) 5. 田舎町で繰り広げられる少年たちのスポーツ人情劇『ラケット少年団』 Netflixシリーズ『ラケット少年団』独占配信中 『ラケット少年団』の作品紹介 父親の仕事の都合で、都会から田舎の中学に転校してきた少年ユン・へガンが、寄せ集めのバドミントン部を廃部の危機から救うため、コーチである父親と共に大奮闘する様が繰り広げられる少年少女たちのヒューマンコメディ。『愛の不時着』で第五中隊末っ子を演じたタン・ジュンサンや、『椿の花咲く頃』のピルグことキム・ガンフンくんなどの若手俳優が集結し、大ヒットドラマ『応答せよ』シリーズや『刑務所のルールブック』を手掛けた脚本家が紡ぐ、心温まる青春スポーツドラマ。 『ラケット少年団』ライターのおすすめコメント 家族の在り方や女性の働き方、日韓関係まで。描き方が素敵で、今後のニューノーマルになるといいなと。一番はラケット少年団の頑張りから元気をもらえます!(小竹亜紀氏) 前後編で10作品を紹介しましたが、いかがでしたか? まだ一気見できていない作品がありましたら、この機会にNetflixでぜひチェックしてみてください! 制作=キネマ旬報社 ※本文は、「韓国テレビドラマコレクション2022」から一部を抜粋したものです。 全作品、全文は誌面にてご確認ください。無断転載禁止。 -
ヤン ヨンヒ監督、家族と“南”(韓国)の関係を描く
2022年2月17日「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」「かぞくのくに」で知られるヤン ヨンヒ監督の最新作「スープとイデオロギー」が、6月11日(土)より東京のユーロスペースとポレポレ東中野、大阪のシネマート心斎橋と第七藝術劇場ほか、全国で順次劇場公開される。 キネマ旬報ベスト・テン日本映画ベスト・テン1位、ベルリン国際映画祭国際アートシアター連盟賞に輝いた「かぞくのくに」から10 年。その新作はヤン ヨンヒ監督にしか描けない、家族と愛の物語だ。昨年、DMZ国際ドキュメンタリー映画祭2021グランプリ ホワイトグース賞、ソウル独立映画祭2021実行委員会 特別賞を受賞し、注目が高まっている。 公開に先立ち、メインビジュアルが完成、コメントも到着した。 ◢◤イントロダクション◢◤ 年老いた母が、娘のヨンヒにはじめて打ち明けた壮絶な体験──1948年、当時18歳の母は韓国現代史最大のタブーといわれる「済州4・3事件」の渦中にいた。 朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は、「帰国事業」で3人の兄たちを北朝鮮へ送った。父が他界したあとも、“地上の楽園”にいるはずの息子たちに借金をしてまで仕送りを続ける母を、ヨンヒは心の中で責めてきた。心の奥底にしまっていた記憶を語った母は、アルツハイマー病を患う。消えゆく記憶を掬いとろうと、ヨンヒは母を済州島に連れていくことを決意する。 監督は「ディア・ピョンヤン」「かぞくのくに」など、朝鮮半島と日本の悲劇的な歴史のうねりを生きる在日コリアン家族の肖像を親密なタッチで写し続けてきたヤン ヨンヒ。なぜ父と母は、頑なに“北”を信じ続けてきたのか? ついに明かされる母の秘密。新しい家族の存在……。これまで多くの映画ファンを魅了してきた、あの〈家族の物語〉が、まったく新たな様相を帯びて浮かび上がる。ひとりの女性の生き様を通して、国家の残酷さと同時に、運命に抗う愛の力を唯一無二の筆致で描き出す。 (C)PLACE TO BE, Yang Yonghi ◢◤コメント◢◤ (五十音順、敬称略) 「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」「かぞくのくに」──これら宝石のような映画たちを観ながら、私が最も驚かされ気になった人物はオモニ(母)だった。「スープとイデオロギー」は、まさにそのオモニについての物語だ。 ──キム・ユンソク(俳優、映画監督) 「私たち」のすぐ隣に住み、「私たち」とは違うものを信じて生きている「あの人たち」。彼らがなぜそのように生きているのか、なぜ「私たち」には理解できないものを信じようとしたのか。 監督でもある娘が撮影を通して母を理解していくように、この作品を観終わるとほんの少し「あの人たち」と「私たち」の間に引かれた線は、細く、薄くなる。 ──是枝裕和(映画監督) 「ディア・ピョンヤン」「かぞくのくに」、そして本作。ヤン監督による三作品を束ねる圧倒的な強度。むきだしの母の生の姿を追い、やがて現れる家族の真実に心臓を射貫かれる。 ──平松洋子(作家、エッセイスト) 在日朝鮮人の家族史を通じて、韓国の現代史を掘り起こした作品。 一人の女性の人生を通じて、韓国史の忘れられた悲劇を復元した演出力が卓越している。 ──2021年 韓国DMZ国際ドキュメンタリー映画祭・審査評 (C)PLACE TO BE, Yang Yonghi ◢◤監督の言葉◢◤ 本作で私は、初めて家族と「南(韓国)」との関係を描いた。 「スープとイデオロギー」というタイトルには、思想や価値観が違っても一緒にご飯を食べよう、殺し合わず共に生きようという思いを込めた。1本の映画が語れる話なんて高が知れている。それでも、1本の映画が、世界に対する理解や人同士の和解につながると信じたい。私の作品が多くの人々にとってポジティブな触媒になることを願っている。 ──ヤン ヨンヒ PROFILE 監督・脚本・ナレーション:ヤン ヨンヒ 大阪出身のコリアン2世。米国NYニュースクール大学大学院メディア・スタディーズ修士号取得。高校教師、劇団活動、ラジオパーソナリティ等を経て、1995年より国内及びアジア各国を取材し報道番組やTVドキュメンタリーを制作。父親を主人公に自身の家族を描いたドキュメンタリー映画「ディア・ピョンヤン」(05)は、ベルリン国際映画祭・最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)、サンダンス映画祭・審査員特別賞ほか、各国の映画祭で多数受賞し、日本と韓国で劇場公開。自身の姪の成長を描いた「愛しきソナ」(09)は、ベルリン国際映画祭、Hot Docs カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭ほか多くの招待を受け、日本と韓国で劇場公開。脚本・監督を務めた初の劇映画「かぞくのくに」(12)はベルリン国際映画祭・国際アートシアター連盟賞(CICAE賞)ほか海外映画祭で多数受賞。さらに、ブルーリボン賞作品賞、キネマ旬報日本映画ベスト・テン1位、読売文学賞戯曲・シナリオ賞等、国内でも多くの賞に輝いた。著書にノンフィクション「兄 かぞくのくに」(12/小学館)、小説「朝鮮大学校物語」(18/KADOKAWA)ほか。 ◢◤メッセージ◢◤ 「オモニ(母)のドキュメンタリー映画を撮ろうと思う」 妻であるヤン ヨンヒ監督からそう告げられたのは、2016 年のことだ。「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」に続く新たなドキュメンタリー映画を作ると言う。当然ながら、その挑戦に水を差すどころか「映画を早く観たい。がんばれがんばれ」と背中を押した。だが、続く言葉を聴いてイスから転げ落ちた。 「オモニとあなたを撮りたい。カメラを回してもいいかな。顔を映すのに差し支えがあるなら、首から下を映すとか、顔が映らないように工夫してカメラを回すから……」 ドキュメンタリー映画の被写体になるという行為は、監督と共に海に身投げするようなものだと私は思う。中途半端な構えで「スープとイデオロギー」に参加すれば、荒海に揉まれて溺れ死ぬかもしれない。ヤン ヨンヒ監督と家族が生きてきた長大な時間と記憶の海に、思いきって飛びこんでみよう。カメラの前ですべてをさらそう。そう決めた。 ──荒井カオル PROFILE エグゼクティブ・プロデューサー・出演:荒井カオル 長野県生まれ。日本国籍をもつ日本人男性。出版社勤務を経て、2005 年にフリーライターとして独立。映画「スープとイデオロギー」の制作資金調達を務めつつ、被写体の一人として作品に参加する。 (C)PLACE TO BE, Yang Yonghi (C)PLACE TO BE, Yang Yonghi 「スープとイデオロギー」 監督・脚本・ナレーション:ヤン ヨンヒ 撮影監督:加藤孝信 編集・プロデューサー:ベクホ・ジェイジェイ 音楽監督:チョ・ヨンウク アニメーション原画:こしだミカ アニメーション衣装デザイン:美馬佐安子 エグゼクティブ・プロデューサー:荒井カオル 製作:PLACE TO BE 共同制作:navi on air 配給:東風 韓国・日本/2021/日本語・韓国語/カラー/DCP/118分 公式HP:soupandideology.jp -
アリシア・ヴィキャンデル、養子問題の衝撃を語る。「ブルー・バイユー」
2022年2月17日2021年カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品され、8分間に及ぶスタンディングオベーションを浴びた愛と感動の物語「ブルー・バイユー」が、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー中。 監督・脚本・主演を務めるのは、映画「トワイライト」シリーズで俳優として知られ、監督としても数々の賞を受賞している韓国系アメリカ人のジャスティン・チョン。共演は、2015年「リリーのすべて」でアカデミー賞®︎助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデル。 [caption id="attachment_9413" align="aligncenter" width="670"] (L to R) Sydney Kowalske as "Jesse", Justin Chon as "Antonio" and Alicia Vikander as "Kathy" in BLUE BAYOU, a Focus Features release. Credit : Focus Features[/caption] 韓国で生まれ、わずか3歳で遠くアメリカに養子に出された青年が、自身は知る由もない30年以上前の書類不備で、国外追放命令を受け、二度と戻れない危機に瀕したらどうするか? アメリカの移民政策で生じた法律の“すき間”に落とされてしまった彼は、愛する家族との暮らしを守れるのか。 不器用な生き方しかできない男、大きな愛で支えようとする女、義父を失う不安を抱える少女。突如襲われた不幸に揺れ動く家族3人を、美しい映像で力強く描いた名作だ。 「私が初めて脚本を読んだ時の衝撃を観客にも感じてもらいたい」 このたび、国外追放の危機に瀕した夫を支える妻・キャシーを演じたアリシア・ヴィキャンデルのインタビュー映像が到着、役柄や映画のテーマについて話している。 「この作品では、アメリカだけでなく世界中の養子問題にも触れている。書類手続きに不備があって、どの国の市民権も得られず、家族や友達のいる生まれ育った国から、突然よそ者扱いを受けたりする」と、この映画が描く普遍的なテーマについて掘り下げ、「私が初めて脚本を読んだ時の衝撃を観客にも感じてもらいたい。私自身、この家族にまつわる物語に深く心を揺り動かされたわ。アメリカだけでなく、世界中にこれほど多くの養子がいるとは。彼らは自分の国から合法的に追い出されてしまう。生まれ育った国なのに。信じることができなくて、個人的にもっとリサーチしたり、この問題に関する記事を読んだわ。まさか自分が生活する社会でそんな事が起こり得るとは。でも、それが現実だった。こういう物語は知る価値がある。作品に命を与えてくれたジャスティンと他の関係者にも感謝してるわ」と、この映画を観て現実を知ってほしいと、観客への期待を込めて語った。 観客からはSNSで、「家族についての物語。心奪われました」「不遇な生い立ちや理不尽さに翻弄されながらも溢れ出る人間らしさ。号泣」「『血の繋がり』映画の新たな傑作爆誕」「嗚咽を堪えるのに必死だったラスト5分/見て欲しいじゃない、見ろ」「凄かった。あまりにも完成度が高い」「とても感動的で、胸が熱くなった」「『ブルー・バイユー』やばい。暫定ベストです」「彼らの繊細な演技に揺さぶられた」と絶賛コメントが相次いでいる。その衝撃を劇場で体験されたい。 Story 韓国で⽣まれ、3歳の時に養⼦としてアメリカに連れてこられたアントニオは、シングルマザーのキャシーと結婚し、娘のジェシーと3⼈で貧しいながらも幸せに暮らしていた。ある時、些細なことで警官とトラブルを起こし逮捕されたアントニオは、30年以上前の養父母による手続きの不備で移⺠局へ連⾏され、国外追放命令を受けてしまう。下手をすると強制送還されて二度と戻れない危機に瀕し、2人は裁判を起こして異議を申し立てようとするが、費用が最低でも5千ドルかかることがわかり途⽅に暮れる。家族と決して離れたくないアントニオはある決⼼をする。 「ブルー・バイユー」 監督・脚本・主演:ジャスティン・チョン 出演:アリシア・ヴィキャンデル、マーク・オブライエン、リン・ダン・ファム、エモリー・コーエン 2021年/アメリカ/原題:Blue Bayou/配給:パルコ ユニバーサル映画 ©2021 Focus Features, LLC. -
類まれな活劇スター “ジャン=ポール・ベルモンド” の魅力、ふたたび!
2022年2月16日類まれな活劇スター “ジャン=ポール・ベルモンド” の魅力、ふたたび! 2021年9月6日に逝去したジャン=ポール・ベルモンドの国葬の映像を見て、改めてこの映画俳優の偉大さに思いを馳せた映画ファンも多かったのではないだろうか。日本でも2020年に「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選1」「2」特集が開催されるや予想を超えた大ヒットとなり、ベルモンドの根強い人気を鮮やかに印象づけたばかりであった。 ベルモンドの名前はシネ・フィルの間では長い間、ジャン=リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」(59)と「気狂いピエロ」(65)の伝説的な栄光とともに語られてきた。しかし、ヌーヴェル・ヴァーグの神話はベルモンドの豊饒なキャリアにとってはあくまで一側面にすぎない。 今回発売される「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」(Blu-ray BOXⅠが2月16日、BOXⅡが3月16日発売)では、まずフランス映画史の中でも類を見ないアクションスター、ベルモンドの融通無碍で、ノンシャランな魅力がたっぷりとつまっているBOXⅠ収録の「ド・ブロカ大活劇編」を紹介したい。 まるでバスター・キートンのサイレント喜劇のように [caption id="attachment_9207" align="aligncenter" width="1024"] 「リオの男」 a film by Philippe de Broca © 1964 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.[/caption] フィリップ・ド・ブロカはクロード・シャブロルの「二重の鍵」(59)やフランソワ・トリュフォーの「大人は判ってくれない」(59)の助監督を務めたが、当初からヌーヴェル・ヴァーグの<作家主義>とは一線を画し、デビュー作「恋の戯れ」(60、未公開)から軽妙洒脱なコメディ映画のジャンルを目指した。 その背景には彼のアルジェリア戦争体験がある。「リオの男」(64)の公開当時、ド・ブロカはあるインタビューで次のように語っている。 「アルジェリア戦争での一年半の間に私は苦痛と恐怖に満ちた瞬間を何十回と味わった。『リオの男』をコメディ大活劇にしたいと思ったのは、アルジェやアフリカで私が味わったギリギリの、それでいて胸がドキドキするようなとてつもない体験の記憶を自分の人生の圧縮型として、デフォルメして描きたかったからだ」 「リオの男」のベルモンドはまるでバスター・キートンのサイレント喜劇のように全篇を疾駆する。たとえば建設中の副都心ブラジリアに走ってやってきたベルモンドは車の包囲網を次々にかわし、工事中のビルを一気に駆け上がるや、板やロープを伝って隣のビルに乗り移る。さらに追手が車で逃走すると自転車で追走し、水上飛行機に乗り移ると海の中にまで果敢に突っ込んでゆく――。 ほとんどのアクションシーンはノースタントでベルモンド自らが演じており、途方もない身体能力が次々に披歴されるのをただ茫然と眺めるほかないが、ヒロインを演じたフランソワーズ・ドルレアックのコメディエンヌとしての魅惑を最大限に引き出したのもド・ブロカの大いなる功績だ。リオの貧民街で少年たちに囲まれ、サンバのリズムで突然、微笑みながら踊り出す彼女のコケットリーといったら! 続く「カトマンズの男」(65)は香港、インド、マレーシアなどにロケを敢行、オリエンタリズムを過剰に強調した演出が哄笑を誘う。京劇の舞台上でのドタバタなどオーソン・ウェルズの「上海から来た女」(47)のパロディのようだ。クライマックスはネパールの寺院から気球で脱出するシーンである。上空から降りてくるロープに繋がった錨をベルモンドが追いかけ、ようやく錨に掴まったベルモンドをぶら下げた気球が寺院の間を滑空してゆく、夢のようなファンタスティックな名場面は忘れがたい。 「アマゾンの男」(00)は黄金コンビの掉尾を飾る作品で、老境に入ったベルモンドの滋味あふれる緩やかな活劇精神にふれる悦びはまた格別なものがある。 深い味わいのBOXⅡ「伝説のダンディズム編」 [caption id="attachment_9208" align="aligncenter" width="1024"] 「相続人」 a film by Philippe Labro ©1972 STUDIOCANAL - Euro International Films S.p.A. ALL RIGHTS RESERVED.[/caption] Blu-ray BOXⅡ「伝説のダンディズム」はアクションよりも、陰翳が深い、シブい味わいのベルモンドのポートレイト集の趣きがある。 「相続人」(73、フィリップ・ラブロ監督)は西欧屈指の大立者が謎の飛行機事故死を遂げ、その真相を探る後継者たる息子をベルモンドが演じている。手に負えない猟色家であり冷徹極まりない権力者という「市民ケーン」(41)の主人公を彷彿させる人物造型は異色だが、表情一つ変えずにカルラ・グラヴィーナを平手打ちの応酬の果てに陥落させてしまう冷酷漢ぶりなど印象深い。 「薔薇のスタビスキー」(74)はアート派の名匠アラン・レネとベルモンドの組み合わせが当時、大いに話題となった。久生十蘭の名作『十字街』でも有名なスタビスキー事件を描く。1930年代のフランス政財界を震撼させた稀代の詐欺師スタビスキーをベルモンドは、「相続人」とは好対照な、典雅で謎めいた、さまざまな逸話に彩られた生きた伝説のような人物として浮き彫りにしている。ヒロインのアニー・デュプレーが身にまとうイヴ・サンローランの衣装のように煌びやかで虚飾に満ちた社交界の描写が冴えわたっている。 「エースの中のエース」(82、ジェラール・ウーリー監督)は、1936年のベルリン・オリンピックを背景に、ユダヤ人少年とその家族をナチスから救うために奔走する元空軍パイロットでボクシングの仏代表チームのコーチをベルモンドが嬉々として演じている。 冒頭近く、「戦争なんてくだらない」とベルモンドが呟くシーンがあるが、国家を超える友情というジャン・ルノワールの「大いなる幻影」(37)以来の普遍的なテーマがこの戦争喜劇には通奏低音として流れている。ヒトラーとベルモンドの爆笑必死の対決シーンをはじめナチスそのものを笑殺するようなギャグがつるべ打ちされているのがなんとも小気味よい。 こんな痛快な反戦コメディ作品がこれまでDVD化も劇場公開もされていなかったのはちょっと信じられないほどである。 文=高崎俊夫 制作=キネマ旬報社 「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2」 ●「Blu-ray BOXⅠ ド・ブロカ大活劇編」2月16日(水)リリース 16,500円(税込) 【収録作品】 1)リオの男 2)カトマンズの男 3)アマゾンの男 【BOX仕様・封入特典】 ・アウターケース ・江戸木純 責任編集・24Pブックレット封入 Blu-ray BOXの詳細情報はこちら ●「Blu-ray BOXⅡ 伝説のダンディズム編」3月16日(水)リリース 16,500円(税込) 【収録作品】 1)相続人 2)エースの中のエース 3)薔薇のスタビスキー 【BOX仕様・封入特典】 ・アウターケース ・江戸木純 責任編集・24Pブックレット封入 「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」 ●「Blu-ray BOXⅠ ハードアクション編 」リリース中 22,000円(税込) 【収録作品】 1)恐怖に襲われた街 2)危険を買う男 3)警部 4)プロフェッショナル 【BOX仕様・封入特典】 ・アウターケース ・江戸木純 責任編集32Pブックレット封入 Blu-ray BOXの詳細情報はこちら ●「Blu-ray BOXⅡ 冒険ロマンス編」リリース中 22,000円(税込) 【収録作品】 1)大頭脳 2)大盗賊 3)オー! 4)ムッシュとマドモアゼル 【BOX仕様・封入特典】 ・アウターケース ・江戸木純 責任編集:32Pブックレット封入 -
“日本映画は暗くてダサい” を変えた衝撃!80年代の若者たちを興奮させた「私をスキーに連れてって」が初BD化 バブル景気に日本中が沸き上がる前夜であった1987年の秋、誰も成功を予想できなかった1本の映画が、普段はまったく日本映画に見向きもしなかった多くの若者たちを、映画館へと集めた。 映画界に突如現れた“ホイチョイ・ムービー” 「私をスキーに連れてって」を監督した馬場康夫は、80年代初頭から『見栄講座』『気まぐれコンセプト』などの著作やテレビバラエティーの企画・制作などを手がけていた創作集団“ホイチョイ・プロダクション”の代表で、サラリーマンとして在籍していた日立製作所を退社して臨んだ映画監督デビューだった。出版業界やテレビメディアなどのエンタメシーンにおいて“ホイチョイ”の名はすでに知れ渡っていたが、少なくとも当時の日本映画界ではまったくのノーマーク。根岸吉太郎監督の「永遠の1/2」との二本立てで公開されたこの映画は、フジテレビと小学館が製作し東宝が配給する堂々たる邦画メジャー作品ではあったが、公開前には、それまでの所属事務所を離れた原田知世の独立後初主演作としてくらいしか認識されていなかった。 物語は、高校時代からのスキー仲間とゲレンデに向かった商社マンの主人公・矢野文男(三上博史)が、そこで偶然出会った同じ会社に勤めるOL・池上優(原田知世)に一目惚れし、スキーを通して次第に心の距離を縮めていくという、突き詰めればシンプルな“ボーイ・ミーツ・ガール”のラブストーリー。それがいざ蓋を開けてみると、最新のゲレンデ事情などのトレンド情報を随所に盛り込んだドラマ作り、スキー場面の臨場感と爽快感、全編を彩る松任谷由実のヒット曲など、従来の日本映画にはなかった軽快なタッチの恋愛群像劇が展開され、多くの若者が劇場に押し寄せるスマッシュヒットとなった。 そもそもホイチョイ・プロダクションの面々は、映画を含む“遊び”が大好きな高校時代の仲間が集まったもので、自主映画の制作経験もあり、「私をスキーに連れてって」はまさに彼らの長年の夢を実現させた企画だった。同時に、高校時代の仲間が社会に出てからも一緒になって趣味に没頭しているという、彼ら自身を投影させた物語でもある。脚本を手がけたのは、本作をきっかけに一躍スター脚本家となり、今も活躍を続ける一色伸幸。撮影の長谷川元吉をはじめスタッフには映画畑の実力者たちが揃っていたことも、成功の大きな要因となったのは間違いない。 「日本映画は暗くてダサい」を変えた衝撃 この時代、今と違ってシネコンの文化はまだ日本に入ってきておらず、国内の映画産業は縮小の一途をたどっていた。特に深刻だったのは、若年層の一般観客がほとんど日本映画を見ない状態にあったことで、“デートムービー”という言葉はまだ一般化していなかったが、若者たちがデートや余暇の目的地として映画館を選択すること自体が減る一方だった。仮に映画館に行くとしても、若者たちが見るのはハリウッド製エンターテインメント映画が大半で、映画ファンの間で徐々に広まりつつあったミニシアターブームもヨーロッパのアート系映画の秀作が中心。日本映画は市場の隙間のような場所にひっそり咲いているだけの扱いだった。今の若い観客にはピンとこないかもしれないが、この頃、日本映画とは、暗くて、重たくて、ジメジメしているダサい存在で、およそデートで見る代物ではないと蔑まれていたのだ(もちろんこの当時も優れた日本映画は山のようにあったのだが!)。 そんな日本映画界に突如現れた「私をスキーに連れてって」はこうした観客層を掘り起こし、すでにブレイクの兆しを見せていたスキーブームの起爆剤にもなった。さらには、劇中に登場したスキーギア、スキーテクニックはもちろんのこと、登場人物たちのゲレンデでのファッションや行動、スキーとは直接関係のない小道具、登場した乗用車、ロケ地に至るまで、あらゆるディテールが見た人たちの話題にのぼり、流行の発信源として“ホイチョイ・ムービー”そのものが新たなトレンドとなっていったのである。 折しもテレビドラマの世界では、この前年の『男女7人夏物語』のヒットを契機に“集団恋愛もの”ブームが起きており、「私をスキーに連れてって」で原田知世の相手役をつとめ一躍ブレイクした三上博史が、この後沸き起こるトレンディドラマブームの中心俳優のひとりとして活躍を続けたのも、本作のヒットを象徴する現象と言える。 批評家たちは、若者を中心とした観客の興奮に戸惑いつつも、その新感覚と企画力を評価する声と、空虚なトレンド礼賛だと酷評する声に二分された。それでも本作の登場が映画界に与えたインパクトは想像以上に大きく、膨らんでいったバブル景気とも相まって、映画製作への異業種参入、若者にアピールする企画開発、“異業種監督”と呼ばれる他分野からの監督デビューをはじめとする新人監督の誕生ラッシュが加速していった。フジテレビの映画製作もそれまでの大作路線から若者向けにシフトし、岩井俊二、三谷幸喜らの才能発掘を経て、98年の「踊る大捜査線 THE MOVIE」のメガヒットにより、日本映画界の興行地図を大きく塗り替えることになる。今や観客の外国映画離れが深刻に語られる時代で隔世の感があるが、「日本映画は暗くてダサい」と敬遠されていた状況を180度変えた最初のきっかけこそが、「私をスキーに連れてって」だったのだ。 トレンドを取り入れるのではなく、流行をリードした映画 今、改めて見直してみても、本作が日本映画界に吹き込んだ新しい風とは、若者の間で流行っている物や事象を“いち早く映画に取り入れた”ことではなく、これから流行りそうなもの、流行らせたいものを、観客の“半歩先からプレゼンしてみせた”ことだったのだと、強く感じる。スキーブームだから週末スキーヤーの映画を作ったのではなく、来たるべきスキーブームの先鞭として映画が流行をリードする姿勢を見せつけたのが、この映画だった。 松任谷由実の名曲『恋人がサンタクロース』にのせて、主人公たちがさまざまなスキーテクニックや雪山での遊び、新しいスキーギアやガジェットを次々と披露するシークエンスは、当時も新鮮な驚きと感動を覚えた記憶があるが、今見てもその鮮烈さは色褪せていない。映像と音楽の力が正面から拮抗して相乗効果を生んだ、日本映画のエポックメイキングのひとつだ。 そして、モラトリアム期の若者たちが大人へと成長していく青春の最後の輝きが、この映画には余すところなく描かれている。スキー以外まったく不器用な青年の一途な想いと情熱、傷つくのが怖いヒロインの小さな一歩、二人を見守る仲間たちの友情と信頼。そんな普遍的な青春像こそが本作の最大の魅力であり、馬場監督や脚本の一色がこの映画に込めた一番の思いだったろう。 「私をスキーに連れてって」には、熱く、幼く、自由で、ひたむきな、そしてほろ苦い、青春のすべてが詰まっている。 文=進藤良彦/制作=キネマ旬報社 「私をスキーに連れてって」 ●2月16日初Blu-rayリリース(DVDリリース中) Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray:¥4,180(税込)DVD:¥3,300(税込) ●日本/カラー/本編98分 ●監督:馬場康夫 ●出演:原田知世、三上博史、原田貴和子、沖田浩之、高橋ひとみ、布施博、鳥越マリ、飛田ゆき乃、竹中直人、田中邦衛 ●発売元::フジテレビジョン・小学館・ポニーキャニオン 販売元:ポニーキャニオン ©1987 フジテレビ・小学館