記事
「ジャン=リュック・ゴダール」の検索結果
(27件)
-
ちょっとした細部の妙味――先日のことだ。再放送されていた往年の人気TVドラマ、山田太一脚本、木下惠介アワーの名作『二人の世界』(70〜71)を再見していたら、ある回で栗原小巻扮するヒロインの実家の部屋にゴダールの映画「軽蔑」のポスターが貼ってあるのに改めて気付き、目を奪われた。
一応ちゃんと説明しておくと「軽蔑」とはジャン=リュック・ゴダール監督の長篇6作目、1963年(日本では翌64年)に公開されたフランス・イタリアの合作映画だ。「ゴダール作品は難解」というイメージがあるけれどもかような国民的ドラマの〝小道具〞に使われるほどのポピュラリティを備えていたのだ。またこの「軽蔑」の場合、主演がフランスを代表するスター、ブリジット・バルドーだったのも大きい。金髪で完璧なスタイルのセックスシンボルにしてファッションアイコンゆえに、浸透度がより高かったのである。
彼女は、劇作家(ミシェル・ピコリ)の夫に「私はあなたを軽蔑する。もう愛はないの」と告白、その唐突な心変わりと仕返しが描かれてゆく。そこには傲慢な米国人プロデューサー(ジャック・パランス)が絡んでいて、夫は大作映画の脚本のリライト要請に悩んでいた。原作はイタリアの大家アルベルト・モラヴィアなのだが、ゴダールは当時の妻、女優アンナ・カリーナとの関係を生々しく反映させており、さらには創造性を捨てて、ハリウッド的な商業主義に与する世の趨勢に本作を通じて異を唱えてもいるのだった。
しかし、そもそもバルドーが主役の時点で商業映画になってしまう。ではゴダールはどうしたか? 矛盾を引き受けながら「二重性の戦略」を取った。要はスターの輝きはしっかり捉えつつ彼女の役柄が放つ〝軽蔑の視線〞によって映画自体をところどころ、異化してみせたのだ。そして劇中撮影される大作(ギリシャ神話『オデュッセイア』)とこの夫婦の物語をクロスさせ、監督には複雑なキャリアを持つ巨匠フリッツ・ラングを本人役で起用、下に付くスタッフ役にゴダールも交ざってリアリティラインを崩そうと試みている。
無論、他のゴダール作品同様、色彩のコンポジションが映画を感覚的に導いていき、夫婦の〝心の漣さざなみ〞を表現するジョルジュ・ドルリューの甘美な音楽も素晴らしい。ちなみに1970年9月21日に「軽蔑」は、『二人の世界』と同じTBS系の『月曜ロードショー』で初放映され、後者は同年12月1日からスタート。例のポスターは、葛藤する夫婦繋がりで選ばれたのかも知れぬ。
文=轟夕起夫 制作=キネマ旬報社
(「キネマ旬報」2023年11月号より転載)
https://www.youtube.com/watch?v=2e11nlW7AIc
「軽蔑 60周年4Kレストア版」
1963年/フランス/ 104分
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:ブリジット・バルドー、ミシェル・ピコリ、ジャック・パランス、ジョルジア・モール、フリッツ・ラング
配給:ファインフィルムズ
◎11月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて
© 1963 STUDIOCANAL - Compagnia Cinematografica Champion S.P.A. - Tous Droits réservé
公式HPはこちら
-
映画と美食の街として名高いスペインのサン・セバスチャン。そこで開催される国際映画祭を舞台に、ウディ・アレンが映画愛たっぷりに綴ったロマンティック・コメディ「Rifkin's Festival」(原題)が、2024年1月19日(金)より新宿ピカデリーほかで全国公開される。場面写真と海外版予告編が到着した。
ニューヨークの大学で映画学の教授を務める、売れない作家のモート・リフキン。有名なフランス人監督フィリップの広報を担当する妻のスーに同行し、サン・セバスチャン映画祭にやってきた。その理由は、いつも楽しげなフィリップとスーの浮気を疑っているから。
モートが街をふらついていると突如、フェデリコ・フェリーニ監督「8 1/2」の世界が目の前に現れる。さらに夢の中では、オーソン・ウェルズ監督「市民ケーン」やジャン=リュック・ゴダール監督「勝手にしやがれ」に自分が出演していたりと、不思議な体験をする。そんな中、浮気を疑うストレスで心気症になったモートは、美しい医師のジョーに出会い……。
ウディ・アレンの分身と言えるモート・リフキンを演じたのは、「マンハッタン」で映画デビューし、「ラジオ・デイズ」「ウディ・アレンの影と霧」「スコルピオンの恋まじない」「メリンダとメリンダ」など多くのアレン作品に出演してきたウォーレス・ショーン。妻のスー役は「バウンド」「フェイス/オフ」のジーナ・ガーション、医師のジョー役は「私が、生きる肌」「ワンダーウーマン」のエレナ・アナヤ、映画監督フィリップ役は「グッバイ・ゴダール!」「オフィサー・アンド・スパイ」「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」のルイ・ガレルが務める。撮影監督は「カフェ・ソサエティ」「女と男の観覧車」「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」に続きアレンと4度目のタッグとなる83歳の巨匠ヴィットリオ・ストラーロだ。
映画は第68回サン・セバスチャン国際映画祭でプレミア上映された。アレンらしいビタースイートな物語に期待したい。
「Rifkin's Festival」(原題)
監督・脚本:ウディ・アレン
撮影監督:ヴィットリオ・ストラーロ
出演:ウォーレス・ショーン、ジーナ・ガーション、ルイ・ガレル、エレナ・アナヤ、セルジ・ロペス、クリストフ・ヴァルツ
提供:ロングライド、松竹 配給:ロングライド
© 2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.
longride.jp/rifkin/
-
アルベルト・モラヴィアの小説を原作に、ジャン=リュック・ゴダールがキャストにブリジット・バルドー、ミシェル・ピッコリ、ジャック・パランス、ジョルジア・モール、さらに巨匠フリッツ・ラングを迎えて “愛の終焉” を描いた「軽蔑」(1963)が、60周年を記念した4Kレストア版で復活。11月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで公開される。ポスタービジュアルと予告編が到着した。
ポスタービジュアルは、「地獄の黙示録 ファイナル・カット版」などのオルタナティブポスターで知られるベルギーのアーティスト、ローラン・デュリューが制作。
220時間に及ぶ作業で、色彩や照明のずれなど時間経過に伴う欠陥が補正され、2023年カンヌ国際映画祭クラシック部門で上映された4Kレストア版。甦った鮮烈な映像世界を堪能したい。
Story
劇作家のポールは、アメリカから来たプロデューサーのプロコシュより、フリッツ・ラングが監督する大作映画「オデュッセイア」の難解な脚本を修正するよう依頼される。プロコシュはポールの妻カミーユに関心を寄せ、カミーユは愛し合っていたポールに軽蔑の眼差しを向け始める。カミーユを問い詰めるポールだが、核心には迫れない。不穏なムードのままロケ地のカプリ島を訪れた彼らは、決定的な瞬間を迎えることに──。
「軽蔑 60周年4Kレストア版」
監督:ジャン=リュック・ゴダール 原作:アルベルト・モラヴィア
出演:ブリジット・バルドー、ミシェル・ピッコリ、ジャック・パランス、ジョルジア・モール、フリッツ・ラング
1963/フランス/カラー/フランス語、イタリア語、英語、ドイツ語/104分
配給:ファインフィルムズ 映倫:G
© 1963 STUDIOCANAL - Compagnia Cinematografica Champion S.P.A. - Tous Droits réservés
-
映画界の伝説となったジャン=リュック・ゴダールの作家人生を紐解くドキュメンタリー「GODARD CINEMA」(英題)が、9月22日(金)より新宿シネマカリテ、シネスイッチ銀座、ユーロスペース、アップリンク吉祥寺ほかで全国順次公開。海外版ポスタービジュアルが到着した。
監督・編集は、ドキュメンタリーの編集を数多く手掛けてきたシリル・ルティ。本編には「勝手にしやがれ」(60)「女と男のいる舗道」(62)「気狂いピエロ」(65)「彼女について私が知っている二、三の出来事」(67)「中国女」(67)、そして〈ジガ・ヴェルトフ集団〉時代から「ゴダールの映画史」(88〜98)まで、数々のゴダール作品の映像が登場。さらに家族や友人、元パートナーたちの証言、ならびに女優マーシャ・メリル、ジュリー・デルピー、ナタリー・バイ、ハンナ・シグラ、映画監督ロマン・グーピル、批評家ティエリー・ジュスらの新たなインタビューを交え、たゆまぬ自己改革を行いつつ避けがたく自己破壊に向かっていく芸術家の肖像を描いていく。2022年9月13日にゴダールが91歳で自らこの世を去る直前、本作は第79回ヴェネチア国際映画祭ノンフィクション・クラシック部門で上映された。
時に戯画化された神話のクリシェを超えて、見かけより感傷的で、自らの芸術に宿り、時に凌駕されたゴダールの実像に出会える注目作だ。
[caption id="attachment_24177" align="aligncenter" width="850"] 「勝手にしやがれ」©1960 STUDIOCANAL – Societe Nouvelle de Cinematographie – ALL RIGHTS RESERVED.[/caption] [caption id="attachment_24178" align="aligncenter" width="850"] 「女と男のいる舗道」©1962.LES FILMS DE LA PLEIADE.Paris[/caption] [caption id="attachment_24179" align="aligncenter" width="850"] 「気狂いピエロ」©1962 STUDIOCANAL / SOCIETE NOUVELLE DE CINEMATOGRAPHIE / DINO DE LAURENTIS CINEMATOGRAPHICA, S.P.A. (ROME). ALL RIGHTS RESERVED.[/caption] [caption id="attachment_24180" align="aligncenter" width="850"] 「彼女について私が知っている二、三の出来事」©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022[/caption] [caption id="attachment_24181" align="aligncenter" width="850"] 「中国女」©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022[/caption]
「GODARD CINEMA」(英題)
監督:シリル・ルティ
出演:マーシャ・メリル、ティエリー・ジュス、アラン・ベルガラ、マリナ・ヴラディ、ロマン・グーピル、デヴィッド・ファルー、ジュリー・デルピー、ダニエル・コーン=ベンディット、ジェラール・マルタン、ナタリー・バイ、ハンナ・シグラ、ドミニク・パイーニ
2022年/フランス/フランス語/100分/カラー・モノクロ
原題:Godard seul le cinéma 英題:Godard Cinema
提供:シネゴドー、ミモザフィルムズ 配給:ミモザフィルムズ
©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022
-
ジャン=リュック・ゴダールが1968年に渡米し、映画撮影した様子を記録したドキュメンタリー「1PM-ワン・アメリカン・ムービー」が、4月22日(土)より新宿K’s cinemaほかで日本初公開。また同館では、68年の五月革命を予見したゴダールの問題作「中国女」、同作をめぐってゴダールとニューヨーク大学の学生たちが議論する姿を記録した「ニューヨークの中国女」も併せて上映される。予告編が到着した。
1968年の秋、ゴダールは「1AM」(ワン・アメリカン・ムービー)なる企画のため、アメリカ合衆国の反体制的な政治と文化の状況に目を向ける。カメラを回すのは、ダイレクト・シネマの旗手リーコックとペネベイカーだ。だが、ヌーヴェル・ヴァーグを牽引した末に商業映画と訣別したゴダールと、ドキュメンタリー映画界の革命児たちの夢の共同作業は編集段階で頓挫。そしてゴダールが放棄したフッテージをペネベイカーが繋ぎ合わせ、「1PM-ワン・アメリカン・ムービー」が完成した。
予告編では、映画の構想を話すゴダールや実際に撮影されたシーンの断片、インタビューに答えるブラックパンサー党のエルドリッジ・クリーヴァー、ビルの屋上でライブを行うジェファーソン・エアプレインなどが映し出されていく。さらに「ニューヨークの中国女」「中国女」の一部も紹介。激動の時代を捉えた貴重な映像の数々、見逃せない。
©Pennebaker Hegedus Films / Jane Balfour Service
配給:ブライトホース・フィルム
▶︎ 1968年10月、ゴダールはアメリカにいた──。幻の映画をめぐるドキュメンタリー「1PM-ワン・アメリカン・ムービー」