「牯嶺街少年殺人事件」+「エドワード・ヤンの恋愛時代」一挙上映イベントで、濱口竜介&岨手由貴子がトーク
- 濱口竜介 , 岨手由貴子 , エドワード・ヤン , エドワード・ヤンの恋愛時代 , 牯嶺街少年殺人事件
- 2023年08月14日
巨匠エドワード・ヤンの青春群像劇「エドワード・ヤンの恋愛時代」(1994)が、4Kレストア版で8月18日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかで全国公開される。また同監督作「牯嶺街少年殺人事件」(1991)が、8月11日(金・祝)より1週間限定で、TOHOシネマズ シャンテにて上映中だ。
8月11日には「エドワード・ヤンの恋愛時代」と「牯嶺街少年殺人事件」の一挙上映イベントで、「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督と「あのこは貴族」の岨手由貴子監督によるトークショーが行われた。
20代前半に初めて見たエドワード・ヤン作品が「ヤンヤン 夏の想い出」(2000)だったという濱口監督。同作について「素直におもしろいと思えるエドワード・ヤン作品であり、僕にとってのエドワード・ヤン映画の入り口になってくれた作品、そして映画好きになっていくうえでの入り口にもなった作品」だと述べた。
エドワード・ヤン作品の入り口は「牯嶺街少年殺人事件」だったという岨手監督は「とにかくすごいものを見た(と思った)。でもレンタルしたVHSで見たのであまりよく見えなくて分からない部分もたくさんありました。でもとにかくすごいことだけは分かる、という映画体験でした。『恋愛時代』は『牯嶺街少年殺人事件』ほどの衝撃はなかったけど、見返すごとに年々好きになっていくというか、大人になるにつれて、エドワード・ヤン作品のなかでも好きな一作になりました」と語る。

自身の作品づくりに与えた影響について、濱口監督は「映画を撮るうえで、だんだん影響を受けていくのを感じます。いちばんはカメラの置き方、視点の見つけ方ですね。どこにカメラを置いたら豊かになるか、『映画にならないな』と思いながら暮らしているこの街の、どこだったら映画になるのか。ヤン監督の作品は、空間のなかで人物が生きていて、空間そのものが人物の構造にも影響を与えている。人間関係だけじゃなくて、街自体を描くことを自分の映画でもやりたいなと思っています」
岨手監督は、「おこがましい話ですが、実は『あのこは貴族』は『恋愛時代』をかなり意識して作った作品です。都市のなかで、登場人物たちが明らかに東京でしかありえない人間関係、暮らしをしていて、その街に馴染んでいるのではなく、どこか浮遊している感覚だったり、ちょっとした摩擦や亀裂が登場人物たちと街のあいだに生まれていることを表現できないだろうかと考えた時に、『恋愛時代』が参考になりました」

4Kレストア版で再見しての印象について、濱口監督は「(はっきりと)見えるようになりましたよね、みんな顔が分かる(笑)。実は『牯嶺街少年殺人事件』と『恋愛時代』は出演俳優が共通しているんですけど、数年前の『牯嶺街少年殺人事件』のデジタル・リマスター版と、今回の『恋愛時代』4Kレストア版を見てようやくそれが分かりました。また声もとても印象に残りましたね。喧嘩をしているシーンの痛い感じや、暗い場面での親密な二人だけの空間で発せられる声が如実に描かれていて、前に見た時よりすべてが自分の心に届くような気がします」
岨手監督は「前にDVDで見た時は、単純に見えなくて登場人物を混同していました(笑)。そのくらい全然違う印象でした。歩道橋で義理の兄が一人で下を眺めるシーンがあるのですが、DVDで見た時はあまり印象に残ってなかったんです。でも今回レストア版であのシーンを見たとき、『あっ、この映画は基本二人、カップリングで構成されているんだ』と気づき、一人になる瞬間が鮮烈に感じられたんです。二人でいるのに何か気持ちが寄り添えきらない人たちのカップリングがずっと描かれるからこそ、一人になった時ポジティブな気持ちではないはずなのに、どこか清涼感を感じる気がしました」
最後に濱口監督は「大学院の時に大視聴覚教室で『牯嶺街少年殺人事件』を見て、自分の映画人生が変わった瞬間だった。こんな映画が存在するのか、と。世界そのものが映っているという感覚をもちました。それがいま自分が映画をやるモチベーションになっています」、岨手監督は「『牯嶺街少年殺人事件』も『恋愛時代』もわかりやすい映画ではないが、よく分からなかったらもう一度見ていただけたらと。何回も見るうちに自分の脳内解釈も変わってくるし、人生観も変わってくる。そういった体験をさせてもらえること自体が、私は映画を見る一つの価値だと思います」と会場に語りかけた。
「エドワード・ヤンの恋愛時代」
監督・脚本:エドワード・ヤン
出演:ニー・シューチュン、チェン・シァンチー、ワン・ウェイミン、ワン・ポーセン
原題:獨立時代 英題:A Confucian Confusion
1994 年/台湾/1:1.85/5.1ch/129 分
字幕翻訳:樋口裕子 日本語字幕協力:東京国際映画祭
配給:ビターズ・エンド