「ある道化師」のストーリー

1960年。ハンス・シュニーア(ヘルムート・グリーム)は30歳。道化師を職業としている。彼は、ドイツでも有数の資産家の家柄に生まれ、厳しいカトリックの教えを受けて育った。しかし、ナチ支配下の45年に、姉ヘンリエッテ(スザンヌ・ザイドラー)が母に強制されて対空砲兵隊に志頼し、祖国への義務を遂行中に死んだことで社会の虚偽に疑問を抱きモラルに反撥しはじめる。そして、彼は道化師であることを選んだ。ハンスは、幼なじみでカトリックの娘マリー(ハンナ・シグラ)と恋に陥りかけおちするが、幸せに満ちた生活は長くは続かなかった。徹底して教会を憎むハンスは、生まれてくる子供が洗礼を受けなくてはならないことを考えるとぞっとしたのだ。そのために正式な結婚を拒否するハンスに、マリーがたえられなくなり、彼から去った。愛するマリーを失い、仕事もうまくいかなくなった彼は、家族を訪問するが、その訪問は家族に対する不信を深めるだけに終った。かつての人気道化師ハンスは、今では物ごい同然におちぶれて、ボン駅の階段でギターを弾き語っている。間もなく到着する列車には、カトリック教徒と結婚したマリーが乗っているのだった。