「潮騒(1974)」のストーリー

ローラン・ベルマン(Y・モンタン)は四九歳、暴力と犯罪心理学に関する研究にその半生を捧げた学者である。数年前に暴力に関する書物を出版して注目を浴び、今はその続篇を書きたいと思っていた。彼は、シーズン・オフをねらって、フランスの田舎の海岸にやってきた。適当な家が見つかるまでホテルに滞在することになったが、そこで予期せぬ事件にまきこまれた。ある日、レストランのトイレで奇妙な若者に会い、いきなり暴力をふるわれたのだ。この理由なき暴力行為のために打撲症を負ったローランは傷の手当てをしてもらうためにホテルの主治医プジェ(R・クッチョーラ)を呼んだ。だが彼は手当てらしい手当てもしてくれず帰っていった。ローランは翌日になっても傷の痛みがとれないために、もう一度医者を呼んだ。ところが、今度きたのは昨晩の医者ではなく、若く美しい女医コンスタンス・ウィーバー(K・ロス)だった。彼は一眼でコンスタンスが好きになった。コンスタンスのローランに対する思いも同じだった。中年のローランとコンスタンスの恋はきわめて自然に深まっていった。二人は、あるときは人っ子一人いない浜辺で、あるときは小型ヨットの中で愛を交わした。その間にも暴力沙汰はあった。レストランのトイレでローランに襲いかかった若者が町のベーカリーで暴力をはたらき、ベーカリーの主人に猟銃で射殺されるという事件があった。ローランとコンスタンスは、こうした不吉な暴力行為に脅かされつつ、甘美な夢を追い続けたがついに思いがけぬ不幸が襲いかかった。ある日、一人で海辺に出たコンスタンスが地廻りの不良たちに襲われた。彼女の悲鳴をきいたローランが不良たちを制止しよりとしたことから、格闘となり、殺されてしまったのだ。ローランを喪ったコンスタンスは失意のあまり、ある夜ローランと一緒に過ごした愛用のボートに火を放ち、ともずなをほどいた。燃えあがったヨットはあかあかと夜空を焦がしながら沖合へと流されて行った。