「その窓の灯は消えない」のストーリー

彼等がそのアパートに住むようになったのは一九三五年のことだった。モスクワ下町の、鉄道線路のそばの、その国営アパートは、質素だが住みよかった。ダヴィードフ一家の最年少のセルゲイ少年(ユーラ・ミヤスニコフ)は、新しい住み家で、すぐに隣人の若い地質学者ドミトリーと、その美しい新妻リーダ(E・ムイシコワ)に知り合った。セルゲイの父パーウェルと母のクラウジア、姉のカチューシャとそのボーイ・フレンドで運転手のニコライは荷物のはこび入れに忙しかった。他に往年の名女優クセーニヤ、科学者のウォルインスキー一家等、いずれも平凡なソヴィエト市民がこのアパートの住人だった。セルゲイはウォルインスキー家の同年の娘ガーリャ(ズーヤ・ダニーリナ)と親しい友達になった。歳月は過ぎ、セルゲイ(V・ゼムリャニーキン)もガーリャ(Z・ボロトワ)も若者となった。そして二人は愛し合うようになっていた。セルゲイの姉は運転手ニコライと結婚して女の子マイカを生み、一家は幸福だった。しかし、隣家の主婦リーダは決して幸福ではなかった。夫ドミトリーは地質学の実地研究に夢中で、一年の大半を僻地に過していた。一人残るリーダは弧独で退屈だった。そんな時、ダヴィードフ家の長男で戦車隊将校のコンスタンチン(エフゲニー・マトベエフ)が長期休暇で帰ってきた。コンスタンチンは人妻と知りながらリーダの憂いを含んだ美しさにひかれ彼女も彼のたくましい愛情に崩れた。一家の人々の非難も二人の仲を割くことは出来なかった。二カ月後にコンスタンチンは原隊に帰った。リーダの心には苦い後悔がのこった。夫ドミトリーが久しぶりに帰った日、リーダは置手紙をして家を出た。しかし、街路に出て知った戦争の勃発が彼女を家にもどした。二人は改めて強く共に生きていくことを誓った。ニコライも、セルゲイも、そして父親のパーウェルも、男達は総て銃をとって戦場に向った。残された人々は機械ととりくみ、力仕事をし、銃後を固めた。長い、苦しい戦いの後、すべての人に苦痛と悲しみをもたらして、ソヴィエトは勝利を得た。けれど、ダヴィードフ家の父パーウェルは戦死し、コンスタンチンは足に負傷して帰ってきた。セルゲイの恋人ガーリャも従軍看護婦として戦死した。リーダは、行方不明を伝えられる夫ドミトリーの帰りを待っている。もうコンスタンチンの顔を見ても彼女の心は動かない。長い、戦時中の日々をそこに送ったアパートの窓に灯をともして、彼女は帰らぬ夫をいつまでも待っているのだ。