「男の敵」のストーリー

欧州対戦の戦雲おさまって幾何もない1922年の春まだ浅き3月15日の夜、アイルランドの首府ダブリン市で起こった一夜の出来事である。アイルランド自治団建設の運動に奔走する義勇団の一員ジポー・ノーランは6人力の大男であったが思慮浅く、規約を破る行為があったために除名されて約半年の間は食うやくわずの貧窮を続けてきた。ただ彼の恋人のケティーは夜の女だったがジポーを心から愛していた。その日は霧が深かった。人殺しをしてお尋ね者となっている同士フランキー・マクフィリップは霧に紛れて潜入してきた。ジポーはケティーの為に金が欲しかった。そして密告した。この為にフランキーは母と妹の眼の前で惨たらしく殺された。ジポーは密告して得た20ポンドの大金を懐に酒をあおってケティーには渡さなかった。そしてフランキーの通夜に出席した。そのとき酒場で貰った釣り銭が落ちたのでジポーは密告した事を皆に知られたと思い込み口を極めてこの事を否定する。この為に居合わせた同士の1人マルホーランドは怪しみジポーを自治運動の指揮者ギャラガーの許へ連行する。ギャラガーはジポーにフランキーの密告者を発見すれば同士のメンバーに復帰させるという。酔っているジポーは密告者はフランキーに私怨を抱くマリガンだ、と告げる。ギャラガーはそれを確かめる為に今夜1時半に査問会を開くから出席せよと命ずる。ジポーはマルホーランドが尾行しているとは知らずに、派手に金を使い、残った5ポンドはケティーに与える。午前1時半査問会が開かれるがマリガンには午後6時前後には完全なアリバイがあって釈放される。そしてジポーは一夜に使った20ポンドの大金の出所を証明できず、密告者として制裁を受けることとなる。そしていったんは牢を脱してケティーの許に隠れるが、ついに隠れ家を襲撃されジポーは身に散弾を受けて倒れる。しかし最後の力を振り起こして向かい側の教会へ辿り着き、せがれの冥福を祈っているフランキーの母に許しをこう。許すとの言葉にジポーは微笑みを浮かべて絶命する。おりから霧が晴れて夜は開けかかったのである。