「世界の終り(1930)」のストーリー

近代文明の極度の発達は、かえって世界を混乱に陥れ、道義は紊れ、世は戦乱と破滅との道を辿っている。この時、二人の兄弟がいた。兄のマルチアルは実行の人であり天文学を究め、弟のジャンは愛を唱えて、ともにこの世の救済を終世の念としていた。ジャンには天文学者ミュルシーの娘でジュヌヴィエーヴという恋人がいたが、兄マルチアルも彼女を愛しているのを知ると自らの身をひいて二人のためを計った。その上、ジャンは愛の福音を説いていた際、頭部に投石され、やがて自らも発狂する体なる事を知った。かくてジュヌヴィエーヴがジャンに恋の申出を退けられていた時、食欲金力の権化たる銀行家ショーンブルクは利をもってミュルシーを誘い、彼女を己れの手へとさらう事となる。だが、この時、マルチアルは或る彗星が地球に向って突進しつつある事実を発見した。地球と彗星が衝突すれば、これは世界の破滅である!しかもそれが二ケ月の後に迫っている!ここに於て全世界は阿鼻叫喚の巷となった。そして金力と金力との闘争が始まった。ショーンブルグは悪の力であり、これに対し他の大銀行家ウュルステルはマルチアルと組んで人類救済と理想との世界建設に努力した。この混乱の最中にジャンは発狂した。ジュヌヴィエーヴはその枕辺で己の不実を詫びたが、世界破滅を前にして最後の時を享楽したく再び彼女はショーンブルクのもとへ帰って行った。しかし、ショーンブルクは己れの詐欺的投機によって巨利を博そうとしている計画を、マルチアルとウェルステルとがエッフェル塔上から無電で暴露する事を知り、それを止めんとしてエッフェル塔占領を志し、大活劇の後に、彼は墜落惨死した。そしてジュヌヴィエーヴは再び皮肉にもマルチアルに救われた。だが、この間、人々には気づかれないでいたが、死んだ様なジャンの姿が人々の間をさまよっていたのである。いよいよ彗星が地球に近づいて来た。地上では或る者は救いの祈りをあげ或る者は最後の享楽を求めて乱倫に走った。だが、中には最後まで人に尽くす健気な人々の存在も見出された。そして彗星が遂に間近に迫った時、人々はマルチアルを頭にして愛によって結びつき、立上った。しかも幸にして彗星は地球と衝突せずして外れた。地上には、愛と幸福と和らぎの生活がまた生れ出るのである。