「クリスチナ女王」のストーリー

1600年の頃、スウェーデンは30年の間、戦火を浴びていたが皇帝グスタフ・アドルフの率いる軍隊は赫々たる武勲に輝やいていた。だがこの皇帝は1631年ルッツェンの激戦に戦場の露と消え、その王位を継承したのは当時僅かに6才のクリスチナであった。幼くして王位に即いたクリスチナは執権のオクセンスティールナ伯爵の補佐の下に、老僕アーゲを従者として武々しく男優りの気性を持って生い育った。そして常に男装をして、勤勉と精悍とで困難な政務をさばき、時あれば乗馬と狩猟とで多忙な国事の憂さ晴らしをするのであった。このクリスチナが成年に達した時、当然起ったのは結婚の問題であった。人々は彼女の従兄で武将たるチャールズをその有力な後補として推挙した。然し、クリスチナは未だ時期で非ずとなし、オクセンスティールナや、かつては彼女の寵臣たりし財政の司マグヌスの勧めをも聞き入れなかった。そして彼女はただひたすらに世の平和と人民の安泰とを願うのであった。その或る日、例によってクリスチナが男装してアーゲ一人を供につれ、狩猟に出た夜、吹雪にみまわれて、とある旅籠に一夜の宿を求めた。その時、彼女はスペインの使節のアントニオの一行と行き合せた。それから雪に閉じ込められた旅籠での三日三晩、2人の間には忘れ難い思慕の念が湧いたのである。だが、このアントニオこそは実はスペイン王の使節として王よりクリスチナへの結婚の申込みに来た人物であった。こうした運命の戯れはあったが、然しクリスチナとアントニオとの恋心は日ましに燃え、それを嫉んだマグヌスがそそのかしたため人民のアントニオに対する反感は、これも日と共に高まって行った。そして遂に、クリスチナがあらゆる苦衷を以てアントニオをかばったにも拘らず、それらはことごとく妨たげられ、彼女はアントニオを国外へ追放しなければならなくなった。さらにクリスチナを苦しめることには、チャールズとの結婚が急き立てられていた。彼女は遂に決意した。愛する人民ではあり国ではあったが、恋はそれよりも強かった。クリスチナは王位を棄てた。そしてチャールズにそれを譲った。そして彼女は馬車を馳ってダンチッヒの港に、出帆して国へ帰るアントニオの跡を追った。だが、船へ辿りついてアントニオに再会した時、思う愛人は既にマグヌスとの決闘に傷いて再び起てず、彼女の腕の内に、息をひき取って行ったのである。愛する人を失ったクリスチナは涙ながらに、しかし恋人の亡骸を守護して、恋人の懐しい故郷へそれを埋めに行く悲しい決心をした。船は今、毅然と前を見つめる1人の女の深い哀しみを乗せて、ゆるやかに港を離れて行く。