「レ・ミゼラブル(1950)」のストーリー
〔第一部〕一椀の飯を盗んだために十九年間の牢獄生活を送らなければならなかった岩吉は、大政奉還の大赦令により出獄したが、世間は彼に冷たかった。そして危く再び悪に走ろうとしたときミリエル司教は、彼に暖い手をのべ、無限の神の愛を教えた。天刑病として人々に忌み嫌われている男を救ったことから、岩吉は、改良絣の織機の操作を伝授され、事業と徳行を以って知られる福岡県第三区長、松野栄一として更生したのも暫くのことで、自分の前名岩吉の名を負って重罪裁判にかけられる男のいるのを知ると、苦悶したが、ミリエル司教の教えを思い出して自ら名乗り出て罪に服することになった。しかし唯一の心がかりは、転落の女お絹と、彼女に救ってやると約束したその娘小雪のことであった。折しも護送船が難破したのに紛れて脱出、小雪を無頼漢長吉の手から救い出して、何処へともなく姿を消して行った。月日は流れた。〔第二部〕その間に、徳川幕府打倒に立った西郷隆盛が、自ら作った明治政府への不満から反旗をひるがえし、薩摩の志士も続々と上京、東京の巷も物情騒然たるものがあった。こうした中にも、岩吉は強く生き抜き、藤崎万作と名乗って、富裕な生活を営んでいた。小雪も美しく成長して、志士山内と恋仲であった。岩吉はそれを知るといい知れない淋しさに襲われた。その上、福岡以来、彼の身を追っている法律の権化のような熊谷警部の手が再び身辺に迫って来た。無頼の長吉一家は、彼に執拗につきまとって、その娘のお新は、山内に横恋慕をしかけるのであった。捕手に追われて山内が傷ついて倒れ、これを介抱する小雪の必死の有り様を見て、岩吉は若い二人の愛情に負け、その山内を助けようとして流れ弾に当った。そのとき彼は追って来た熊谷をも許した。熊谷は、初めて岩吉の偉大な人格に触れ、人間愛と法との板ばさみになり、そのどちらをも取り得ない自分を恥じて自決した。小雪と山内とのささやかな結婚の日、鳴り響く教会の鐘の音を聞きながら岩吉は全てを失って後初めて得た神の光を仰ぎながら静かにその生涯を閉じた。