「結婚はしたけれど」のストーリー

奇矯な独身主義の百万長者として知られていたヘンリイ・デイヴィッドソンの遺言状を公表するからお集まりを乞う、という弁護士の呼出状を受取った故人の親類縁者たちは期日には定刻前から続々と宏壮なデイヴィッドソン邸にやってきた。ところが読みあげられた遺言状によると親類たちの予期に外れ、全財産は、故人在世中下男下女として献身的に働いてくれたサムとモリイに与えられたのである。永らく婚約していたサムとモリイは故人の縁辺の肝いりで盛大な結婚式を挙げた。思い叶って結婚したサムとモリイの新夫婦は、金持ちとして社会的地位も出来たが、半生を奉公人として過ごして来た両人には社交という奴が大変な苦が手で、素封家夫婦としての世渡りは余り楽でもなく、幸福とも云えないものだった。で時としては離婚して別々に暮らした方が楽だとも考えるのだった。サム夫妻はある時故人を偲んで故人の縁者たちを招いて盛宴を張った。招かれた客の一人たるローラ・モントローズは、矢張り客の一人たる弁護士ヒュームと懇ろになり過ぎて人目に立つのを怖れ、それを誤魔化すためにサムに大仰に巫山戯かかった。ローラの亭主モントローズは怒ってサムに食ってかかろうとしたが、モリイはサムのポケットから出て来た絹の靴下は自分のだと主張してサムがモントローズにノサれるところを救ってやった。しかしモリーは悲しかった。サムがローラと怪しいことは事実だと思ったからである。そして離婚することは何をしてもさけ難いと覚悟した。裁判所でモリーはサムが虐待すると主張し、サムの暴行は斯く斯くといい加減な出鱈目を並べ立てたので、裁判官の同情を博し直ちに離婚判決を与えられた。本当はサムを深く愛しているモリーはこの判決を得て、途方に暮れて了った。サムは自暴自棄となって酒を飲み始め、また賭博にも手を出し、ローラやヒュームと一緒にナイトクラブなどで散財して歩いた。モリーはサムと別れて一人暮らしとなると、毎日々々が侘びしく、みじめな気持ちだった。堪らなくなった彼女は、離婚判決が有効となるまでの猶予期間が切れないうちに、サムを見つけ出して仲直りしようと決心した。サムは持っていた金を使い果たしてハーレム・ナイトクラブの給仕になっていた。モリーは探し歩いて愛人とハーレムで対面すると嬉し涙が出るのだった。そしてお節介なローラが又茶々を入れようとしたが、2人はお互いに愛し合っていることを今更ながら感じて、ただ嬉しさに抱き合って接吻を交わしたのである。