ゆきてかへらぬの映画専門家レビュー一覧
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ライター、編集
岡本敦史
このスタッフ・キャストの顔ぶれで、本誌読者が観ない理由はほぼないと思うので、以下は余談。演出も俳優も容赦なくコテンパンにする田中陽造脚本の難易度の高さがいっそ清々しい。当時の若者のトレンドであるところの近代思想や自意識に染まって久しい大正アウトサイダーズの愛と葛藤を、令和の若者が異国の出来事に触れるように好奇心をもって喰いついたらいいな、と思いながら観た。誰よりも現代作家として在り続けた根岸監督の挑戦に、自分も長らく失った「若さ」を感じた。
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映画評論家
北川れい子
期待が大きかったことは確かだが、まさか観ていてこれほどこそばゆくなるとは思いもしなかった。鈴木清順監督の伝説的な大正ロマン三部作の脚本で知られる田中陽造が、長年温めていたという脚本の映画化。冒頭の雨の京都の狭い路地で、根岸監督が、朱色を効果的に使っていた清順監督よろしく、赤い傘と赤い柿を際立たせていたのはともかく、3人の主役たちの、翻訳ものの舞台劇のような背伸びした演技。ふと“中原よ 地球は冬で寒くて暗い”という草野心平の言葉を思い出したりも。
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映画評論家
吉田伊知郎
根岸が16年ぶりに撮ったのではなく、映画が16年ぶりに現れたのだと言いたくなるほど濃密な空間がそこかしこに出現する。ことに室内セットの仄暗さ、湿気まで漂ってくる空間の素晴らしさ。ロマンポルノが限られた条件下で時代性を再現していたように、撮影所時代を知る監督ならではのセットの活用や、ロケセットの使い方に感心しきり。するのではなく、しないことで三角関係を反射させる泰子は、「ナミビアの砂漠」のヒロインと双璧の存在。ご本人出演の「眠れ蜜」もこの機会に再映希望。
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