動物界の映画専門家レビュー一覧

動物界

人類が様々な動物に変異する奇病が蔓延している近未来を舞台に、パンデミック下でうごめく人々の業を描いた異色のアニマル・スリラー。2023年度セザール賞最多12部門ノミネートを果たし、フランス観客動員100万人を越えた人気作。狂暴な“新生物”は施設で隔離され、フランソワの妻ラナもそのひとりだった。出演は「彼は秘密の女ともだち」のロマン・デュリス、「Winter boy」のポール・キルシェ、「アデル、ブルーは熱い色」のアデル・エグザルコブロス。監督・脚本は、デビュー作「Les Combattants」で数々の賞に輝いたトマ・カイエ。
  • 俳優

    小川あん

    高い完成度のハイブリッドな作品。人間が動物化する感染ウイルスが国内で蔓延するような漠然とした世界観から、家族間の私的な問題へ移行し、さらに主人公が直面した個人の尊厳へと帰結する。これまで多くの映画で使用された題材が組み込まれているが、扱いはもっと繊細だ。その細部の描写がリアリティに富んでいて、現代社会とさほど遠くない。とくに、結末で親子が下した判断からは、そうせざるをえなかった社会の傲慢さと、適応する環境へ身を運ぶ必要性を汲み取った。

  • 翻訳者

    篠儀直子

    古くから神話に見られる変身譚の変奏のようでもあり、ボディ・ホラーの流れの一環のようでもあると同時に、昨今の世界に照らしてさまざまな読みが可能な物語。参照作として監督が挙げている作品とは別に、筆者が連想したのは1940年代RKOプログラム・ピクチュアの古典群で、そうするともう少し簡潔にまとめてほしかった気もするのだが、南仏の美しい風景、学校の授業の様子などの描写が、荒唐無稽と思われそうな世界を見事に日常に着地させる。エミール役のポール・キルシェの演技は天才の域では。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    人間が動物に変異する奇病が蔓延する近未来のフランスが舞台。主人公の男性料理人と動物に変異しつつある妻、そして自分の体の異変を感じる息子の三人を軸にした近未来SF。変異した人間を隔離・攻撃する側と同じ人間として扱う側の軋轢というコロナ・パンデミックのメタファー的設定とギリシャ神話に通じる半獣神というモチーフを用いて、荒唐無稽な設定にヨーロッパ映画ならではの思索的リアリズムを導入することに成功。抑制の効いたVFXも見事な完成度で、深い共感を呼ぶ「明後日の神話」。

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