シンペイ~歌こそすべての映画専門家レビュー一覧

シンペイ~歌こそすべて

明治・大正・昭和を生き、『ゴンドラの唄』『シャボン玉』などの名曲を残した作曲家・中山晋平の生涯を描いた伝記映画。信州から上京し、東京音楽学校を卒業した中山晋平は、演出家・島村抱月や作詞家・野口雨情と出会い、数々の名曲を生み出していく。晋平役を、映画初出演にして初主演となる歌舞伎俳優・中村橋之助が務めるほか、「劇場版ACMA:GAME 最後の鍵」の志田未来、「われ弱ければ 矢嶋楫子伝」の渡辺大、「Winny」の三浦貴大らが共演。監督は「ハチ公物語」の神山征二郎。
  • 文筆家

    和泉萌香

    島村抱月と松井須磨子の恋愛や、都市伝説的に聞いたことがあった〈シャボン玉〉の誕生秘話をはじめ、その時代を生きたひとりの男が見たさまざまな濃密なエピソードが悲しくもテレビドラマのごとくダイジェスト版で語られていくのだが、まず主人公である中山晋平の人生もナレーションに任せっぱなし、どの人物への肉薄がないのも寂しく、あっけなく出る「戦後」のテロップにもずっこけた。どのシーン、時代が移ろっても無邪気に歌をうたう子どもたちは可愛いのだが……。

  • フランス文学者

    谷昌親

    信州から上京するシーンで始まるとはいえ、フラッシュバックで幼年時代も盛り込んだうえで、数々の名曲を生み出してきた中山晋平の65年の生涯を描き切ってしまっているのは、神山征二郎監督だからこその力技で、効率的に物語を進めるこうした手腕が日本映画の土台を築いてきたのだと思わせる。だがその一方で、やはり詰め込みすぎの感は否めず、次から次へと連なるエピソードが中山晋平の一生という枠のなかにほどよく収まるばかりで、映画的な濃密な時空間を構成してはくれない。

  • 映画評論家

    吉田広明

    伝記映画であるから既知の事柄が描かれてゆくのは当然のこととしても、映画として本作は一切既知を超えてくるところがない。本作の主人公は作曲家、しかも歌謡の作曲家であるからには、彼がいかに歌に、声に魅せられたのか、いかに自らの歌を、声を発見していったのかが画面として、音響として創造されねばならないのだが、それがないために結局事実の羅列にしかなっていない。作り手の主人公への思いなどどうでもよい我々としては、映画であるかどうかだけが基準である。

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