シンシン/SING SINGの映画専門家レビュー一覧
シンシン/SING SING
実話を基に、米ニューヨーク州にあるシンシン刑務所で収監者更生プログラムとして行われている演劇プログラムの参加者たちの友情を描いた人間ドラマ。無実の罪で収監されたディヴァイン・Gは、収監者仲間たちと演劇に取り組むことに生きる希望を見出していた。だが、刑務所いちの悪人ディヴァイン・アイが参加することになり、グループ内に波紋が広がる。監督は、「ザ・ボーダーライン 合衆国国境警備隊」のグレッグ・クウェダー。主演は、「ラスティン:ワシントンの『あの日』を作った男」で2024年第81回ゴールデングローブ賞主演男優賞 (ドラマ映画)や第96回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたコールマン・ドミンゴ。キャストの85%以上がシンシン刑務所の元収監者であり、演劇プログラムの卒業生及び関係者である俳優たちが出演している。2025年第82回ゴールデングローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)ノミネート(コールマン・ドミンゴ)。
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映画評論家
川口敦子
キャストの大半を演劇を通したシンシン刑務所の更生プログラム経験者で固めた一作は、穏やかに参加者を鼓舞するひとり、無実の罪で刑を被った作家と所内のだれもが恐れる強面のひとりがゆっくりと心を溶かし合う様を軸に人への眼差しのやわらかな緊密さが紡ぐ物語としてまず胸を打つ。波打つハドソン川、空の高み、吹き抜ける風――そこに息づく土地の精霊めいた感触を掬う繊細な撮影の力も称えたい。演出家役P・レイシーのS・フラーみたいな風貌もドラマをしぶとく支えて素敵だ。
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批評家
佐々木敦
全米最高警備レベルのNYのシンシン刑務所で長年行われている演劇による更生プログラムを題材にした作品で、コールマン・ドミンゴ以外の主要キャストのほとんどが実際に同プログラムを受けたことがある元囚人。ドミンゴとともに実質主演のすきっ歯が粋なクラレンス・マクリンは、これに出たことで人生が一変した。ドキュメンタリータッチの映像設計が功を奏しており、役者陣の本物ぶりも(本物なのだが)相俟って引き込まれる。本番を省略するのも上手い。終幕は紋切型だがまあ許そう。
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ノンフィクション作家
谷岡雅樹
家に帰れた者と今も収監中の仲間に捧ぐ。そう記される。塀の外にあってもホームを持つ者と持たない者とがいる。時々いがみ合っても、同志的な感覚を持ち、またそれは死者にも通じる。実話を基にしたであろうことは、早いうちに気づく。だが解説を読んで初めて知る。登場人物の8割以上が実際にシンシン刑務所の元収監者であった。主人公の台詞にも出てくる映画「フェーム」の刑務所版を見る躍動感を覚えた。踊るか止めるか。何のために踊るのか。この文章もそうだ。踊るためにしか書けない。
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