うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生の映画専門家レビュー一覧
うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生
日本映画に欠かせない名脇役の最晩年に娘のカメラが迫る。4年間にわたり撮り続けた執念のドキュメンタリー。「人間の條件」「仁義なき戦い」シリーズなど名バイプレイヤーとして知られ2019年に92歳で他界した俳優・織本順吉の晩年を、娘で放送作家の中村結美が4年間撮り続けたドキュメンタリー。家族と共に生きられない一面があった父の老いゆく姿を、娘の視点で赤裸々にカメラに収めた。
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映画評論家
上島春彦
この映像はNHKで少し見ていて気になっていた。織本を「乳房よ永遠なれ」のクズ夫演技で見、感嘆したばかりだったので、ここでの台詞を覚えられなくなっている晩年が痛ましいけれども、役者魂だねえと結局感嘆した。監督は彼の娘。泣きわめくお父さんを撮り続け、しまいにはお母さんが一度だけキレる。ここも凄いが、家族が撮るからユーモアもある。自分のあさましい映像を見せられた織本が「凄いドキュメントだな」と娘の仕事を絶賛して死ぬ様子がさすがとしか言いようがない。
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ライター、編集
川口ミリ
娘である監督が、俳優である父・織本順吉との関係に見出したある種の“暴力性”に、カメラの暴力性でもって対抗したのは理解できるとして、タイトルがややミスリードな気も。脳裏に焼きつくのは織本の俳優人生というより、父娘の強烈な愛憎のバトルだからだ。監督は作品のどこが普遍的かを理解していないか、あえてそこから目を背けているように思う。だからこそこの映画はどこか私的な、“一つ屋根の下”のパースペクティブにとどまっている。それが本作の歪な魅力であり、弱点でもある。
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映画評論家
北川れい子
性別で言うのは何だが、父や母など近親者にカメラを向けたドキュメンタリーはなぜか女性監督が際立つ。いずれも死や認知症に寄り添った作品で「エンディングノート」、2部作の「ぼけますから、よろしくお願いします。」、3部作の「毎日がアルツハイマー」。俳優・織本順吉の最晩年までカメラを向けた本作も、テレビドキュで実績のある娘の作品で、しかもきれいごとなし、容赦なし。そしてカメラ慣れしている父の虚実皮膜的実体。父と娘の意地の張り合い的な異色作。
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