ウリリは黒魔術の夢をみたの映画専門家レビュー一覧

ウリリは黒魔術の夢をみた

フィリピンにおけるアメリカン・ドリーム(=バスケットボール)を黒魔術で叶えようとした母親の強い愛と、その運命に翻弄された息子の物語。伝説の背番号23を背負い、恋人との肉欲とバスケ賭博に明け暮れるウリリは、ある日アメリカ行きのチャンスを掴むが……。主人公ウリリを本作が映画初主演となる新人イヴ・バガディオンが演じる。監督はフィリピン映画シーンの新鋭ティミー・ハーン。
  • 映画評論家

    川口敦子

    ロシア製レンズヘリオスが醸すボケの感じがきまっているモノクロの映像はT・ディチロやA・ロックウェルが撮った90年代NYインディのシャビーな感触とも似て、実験的と構えるより遊んだといいたいような重/軽なフットワークが面白い。筋をかいつまむと青春スポーツドラマになるのだが、すんなりそうとは見えない味つけ部分こそがこのフィリピン映画の新鋭ハーン監督の要だろう。トパンガあたりでゆるくらりっていてもおかしくないルイス役、M・アドロの“ぽさ”がいい。

  • 批評家

    佐々木敦

    フィリピン映画というと、私の貧弱な映画的記憶では、古くはキドラット・タヒミック、近年はラヴ・ディアスぐらいしか思い浮かばないが、本作のティミー・ハーンは「フィリピン映画シーンの最先端」とのことである。実際、非常にユニークな作風で、ちょっと驚いてしまった。まるでユスターシュのようなモノクロの映像といい、先の読めないストーリー展開といい、まったくもって一筋縄でいかない。芸術映画と娯楽映画の歪で魅力的なハイブリッド。日本の小説だと小川哲や佐藤究に近いかも。

  • ノンフィクション作家

    谷岡雅樹

    バスケの神様MJと名付けられた主人公。鮮明な固定カメラと白黒映像が印象深く新鮮だ。足りないものは何か。金か。チャンスか。自由か。持っているものは何か。仲間、恋人、育ててくれた叔母。だが強欲で自分勝手で愛情も疑わしい。そしてバスケの才能。いや、度胸も正直さも、体格も、それなりの風貌にも恵まれている。車もある。夢もある。だが悲劇が襲う。生命線のスラムダンクへの道は遠のく。やたらと死ぬ人間は隠喩なのか。フィリピンのルー・リードのような歌声と弦の音色に和まされる。

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