母と暮せばの映画専門家レビュー一覧
母と暮せば
作家・井上ひさしが晩年に取り組んでいた広島・長崎・沖縄をテーマにした構想を「男はつらいよ」の山田洋次監督が受け継いだ家族ドラマ。長崎に落とされた原爆により息子を失った母と彼女のもとに現れた死んだはずの息子とが過ごす少し不思議ながら幸せな日々を描く。広島を舞台にし2004年には黒木和雄監督により映画化された戯曲『父と暮せば』と対になる作品として制作された。助産師の母親を「おとうと」の吉永小百合が、息子を「硫黄島からの手紙」の二宮和也が、息子の恋人だった女性を「小さいおうち」の黒木華が演じる。ほか、「私の男」の浅野忠信、舞台を中心に活躍する加藤健一らが出演。松竹120周年記念映画。
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映画評論家
上島春彦
こういうほどほど感が魅力、と評価する人も多い監督だ。原爆を「人間のすることやなか」と怒る辻萬長。避けられたから運命じゃない、と小百合さん。そうだよな、とは思いつつそれだけかい、と感じる私が無責任なのか。原爆投下から三年経ってようやく現れた息子の幽霊。そのわけは最初に本人から語られるが、本当の理由は最後に分かる、という作り。ラストに歌われる、自殺した作家原民喜の詩に曲をつけた歌は確かに聴き物。小林稔侍の片腕演技とか細部にまで俳優の見どころは多い。
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映画評論家
北川れい子
同じ親と子でも、父親と娘、母親と息子では大違いなのだと痛感する。父系映画「父と暮せば」と対をなす母系映画「母と暮せば」。ベースにあるのはどちらも原爆に対する怒りだが、生き残った娘をテレたように励ます「父と暮せば」の亡霊父親に比べ、「母と暮せば」の亡霊息子は、まだ母親に甘え足りないとでもいうようにあれこれと母親に甘え、ダダをこねる。この辺の密なる母子関係があのラストにつながったのだろうが、息子の恋人に未来を委ねてはいるものの、それでも疑問は残る。
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映画評論家
モルモット吉田
市川・小津の次は黒木和雄かという感じだが、「父と暮せば」の対を意識しすぎて設定に無理を感じる。一人残された息子のもとに母の幽霊が現れる方が良かったのでは。これでは母が死んだ夫や他の息子も忘れて末っ子を溺愛する「息子と暮せば」だ。粗雑な上海のおじさんの扱いは山田映画的で絶品だが、息子と婚約者の〈遠距離恋愛〉に母が手を貸すのかと思っていると素知らぬ顔で、まるで恋人の様な面持ちで息子と過ごしている。「大霊界2」の終盤みたいなラストシーンには呆然。
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