二重生活(2016)の映画専門家レビュー一覧
二重生活(2016)
小池真理子の同名小説をNHKドラマ『ラジオ』で注目された岸善幸が映画化。修士論文執筆のため恩師の勧めで近所に住む妻子持ちの男の尾行を始めた大学院生が、彼の秘密を知ったことで尾行にのめり込み、同棲中の恋人との関係に影響を及ぼしてゆく。出演は「合葬」の門脇麦、「この国の空」の長谷川博己、「ピンクとグレー」の菅田将暉、篠原ゆき子、「お盆の弟」の河井青葉、「WOOD JOB!(ウッジョブ) 神去なあなあ日常」の西田尚美、「向日葵の丘 1983年・夏」の烏丸せつこ、「シェル・コレクター」のリリー・フランキー。音楽は「愛を積むひと」の岩代太郎。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
「尾行」というヒッチコック以来、映画史の最も神経過敏な主題に図々しく乗りこみつつ、現代日本の凋落と破局の予感をも映す。初監督作とはいえ、良い意味で完全にプロフェッショナルな仕事である。修士論文のテーマに「尾行」を選ぶヒロインの大学院生を演じた門脇麦の醸す不健全さが蠱惑的。部外者の出来ごころの先に、人間の醜い欲望があられもなく開陳され、その現場をスクリーンで覗く私たち観客も高みの見物を叱責されていくような、メタレベルの構造が巧妙に仕組まれる。
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脚本家
北里宇一郎
文学的哲学的尾行なんて言葉が提示されるんで、こりゃ難しい映画かなと覚悟。本筋に入ったら浮気男の観察を続ける女子大生の行動を追っていて、見る、見られるのカットバックは映画的。原作にある、女子大生の同棲相手の視点を思いきってカットしたのは功を奏した。が、代わりに浮上した大学教授の挿話はうまく本筋と?みあってない気が。後半に至って、ヒロインが身勝手な嬢ちゃんにしか見えないのが辛い。彼女の気持ちを長々と独白させたりと、この監督、脚本の人ではないような。
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映画ライター
中西愛子
大学院で哲学を学ぶ若い女性が、担当教授の言葉に影響を受け、ひとりの男を尾行し始める。尾行シーンの大胆なロケ撮影が見どころだ。みずみずしく切り取られていく東京の街に、登場人物たちがスッと溶け込む。その臨場感。覗きという意味では、ヒロインの男への視線以上に、監督の孤独な女たちへの視線の方にユニークなものを感じた。門脇麦の生々しい宙ぶらりん感は魅力的だけど、最後、彼女の研究にアカデミックな評価はいらなかったのでは? 烏丸せつこの大人度に旨みあり。
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