十字架の映画専門家レビュー一覧
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評論家
上野昻志
この映画、「いじめの映画」というだけで映画会社やテレビ局は扉を閉ざしたというが、それだけに監督は、撮るからには徹底してやると腹を括ったのだろう。それは、前段の小柴亮太演じるシュンが、苛めを受ける場面の半端ではないリアルさに現れている。その小柴がいい。そして父親を演じる永瀬正敏が素晴らしい。その佇まいに、息子を見殺しにした者たちへの怒りと同時に、何も出来なかった自身への怒りもない交ぜになっている。また在りし日の息子への想いに縋る富田靖子の母も。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
題材が良い。価値があるかどうか、感動を誘うかどうかなどは観るひと個々に違うだろうが、実際の事件と原作に既にある内容が、まずはとにかく興味深い。三十歳の小出恵介が平然と中学生を演じるのは異様だが、私は「ソロモンの偽証」の年少役者勢揃いのリアルより本作のムチャぶりに、大人でも対処しがたい事態の深刻さの象徴を感じてこちらを買う。いじめをする奴は人間のクズ、黙って見ている奴は卑怯者、という台詞があるが実際はそれこそが日本社会の構成員のほとんどだろう。
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文筆業
八幡橙
2月初旬のまさに今日も、中二少年自殺の報を目にした。日々身近で起こり得るこうした現実の酷さを直視し、遺された者たちの背負う十字架の重さとその先辿り着くべく境地について、本作は丁寧に描き出す。共に十字架を背負う小出恵介と木村文乃が、中学生から一貫して現在の姿のまま演じるという特異な設定に、最初はぎょっとした。が、次第に、悲痛な状況を見つめ続ける「目」が一貫していることの意義を知る(特に終盤のサッカーシーン)。少年の弟役、葉山奨之の熱演も印象に残る。
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