ビニー/信じる男の映画専門家レビュー一覧
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翻訳家
篠儀直子
本物のビニー・パジェンサの姿や表情を見たあとではマイルズ・テラーはずいぶん優等生に見えてしまうけれど、主人公の「頑固さ」がきちんと描かれているので、彼の核心がとらえられている感があり、映画にびしっと筋がとおる。その場で聞こえているはずの音を消去して単調な音響をかぶせる、または無音にするという演出の多用が効果的。事故のあとビニーがトレーニングを再開するまでがやや長く感じるのが難だが、最後の試合シーンの見せ方は相当素晴らしく、涙なしでは見られない。
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映画監督
内藤誠
「セッション」で過酷な訓練を受けるジャズドラマーを演じたマイルズ・テラーが一転、交通事故からカムバックするボクサーをひたむきに演じる。前作のJ・K・シモンズに代わり、アーロン・エッカートのトレーナーも深味があり、両者にからむビニーの父親キアラン・ハインズがシブい。マーティン・スコセッシ総指揮のもと、イタリア系アメリカ人の家庭が陽気な雰囲気で出てくるのも面白いが、ドキュメントとしては医療器具を使っての治療とボクシング界のあけすけな損得の描写がいい。
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ライター
平田裕介
試合シーンもそれほどエキサイティングできるように撮っていないし、対戦相手も憎々しく描いてもいないし、彼らと怨恨のドラマがあるわけでもなし。エンタメ作ではなく、リングの上でしか生きられない男がリングの外に放り出されて己と闘う物語なわけだから、それもそのはずである。そうした静かで熱くて立派な作品なのだが、脊椎固定装置を頭蓋にボルト留めしたマイルズ・テラーがあちこちぶつけながら筋トレする姿に、切実さよりも滑稽さを感じたまま終了。そんな自分を反省した。
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