火の山のマリアの映画専門家レビュー一覧

火の山のマリア

農業を営む貧しいマヤの母娘の姿を通して、グアテマラが抱える社会問題を描いたヒューマンドラマ。ハイロ・ブスタマンテ監督は、長編映画デビューとなった本作で、2015年ベルリン国際映画祭アルフレッド・バウアー賞を受賞。幼少期をマヤ文明の地で過ごした監督自らが取材を通じて知り得た事実も盛り込み、ドキュメンタリーのような臨場感溢れる作品に仕上げた。役者には現地の人々を起用している。
  • 翻訳家

    篠儀直子

    グアテマラ高地の暮らしがすぐれたドキュメンタリー映画のようにとらえられ、変化に富んだ地形、緑したたる森、色彩豊かな衣裳や日常の道具類、民間伝承、果ては人物の何気ない動作に至るまで、目に映るものすべてが面白い。しかもことの推移を淡々とつづっているだけのように見せかけながら、やがて力強い物語性と強烈な問題意識が立ち現われる。主人公のマリアもその母親も、内側に熱いものを宿した火山のようであり、映画が終わったあとも噴火の予感(あるいは期待)に心が騒ぐ。

  • ライター

    平田裕介

    雄大な火山、その灰が積もる原野、そこから吹く煙、そして古来の祭典や呪術。スピリチュアルでプリミティブな風景のなか、現代文明がもたらす沈痛な物語が淡々と進む。無垢なまま伝統や文化を守ってきたがゆえに、現代を生き抜くにはあまりに無知で弱い存在となってしまったマヤ人の姿、そこからあらゆる場面で不遇を強いられる女性の悲しみをも浮き上げる二段構えのメッセージ性と視点が巧み。とはいえ、かなり酷い目にあってもヒロインの両親はどこかあっけらかんとしている感じ。

  • TVプロデューサー

    山口剛

    グアテマラの高地で農業を営み、迷信や呪術に従って生きる先住民マヤ人。その一家の母子の物語だ。娘は父親のいない子供を身籠る。堕胎が出来ないと知るや、娘と生まれてくる新しい命のために献身する素朴で善良な母親の存在感は圧倒的だ。大きな体?に大地から学び取ったような生活の知恵。おおらかな女権社会で男性の影は薄い。今村昌平の映画や中上健次のオリュウノオバを思い出す。ドキュメンタリー的に描かれていくが、やがて一家は現代文明の暗部との対峙を余儀なくされる。

1 - 3件表示/全3件