天王寺おばあちゃんゾウ 春子 最後の夏の映画専門家レビュー一覧

天王寺おばあちゃんゾウ 春子 最後の夏

    大阪市天王寺動物園のアジアゾウ・春子を追ったテレビドキュメンタリーの劇場版。1950年、タイからやって来た春子が老いと闘いながらも来園者の前に立ち続ける様子と、春子が最期を迎えるまで寄り添い続けた飼育員たちの姿を映し出す。東京公開に先駆け、2015年11月21日よりシネ・リーブル梅田にて上映。
    • 映画評論家

      上島春彦

      これは思わぬ拾いもの。人間なら百歳に近い老ゾウの最後の日々を真っ正直に描いて出色の出来。若い人から定年間近まで多数いる飼育員も各々個性的で楽しい。というかそれが本作最大の見どころになっている。途中から皆、そろそろ彼女が死ぬな、と了解し始めてその心の準備も見えてくる構成。日本の高齢化社会を象徴するような看護と看取りの日々、とりわけその死の瞬間に感涙必至である。倒れた時に折れてしまった牙が改めてラストに効いてくるあたり、端倪すべからざる上手さ也。

    • 映画評論家

      北川れい子

      なんという命の重さ。飼育員の方たちが必死で支え持ち上げようとする“春さん”の命。アップで写される開いたままの眼は、すでに冷たい陶器のようだが、春さん、春さんと励ます声はまだまだ諦めない。64年間も天王寺動物園にいたアジア象の春さんの厳粛な命の終わり。カメラはその前年から老いが目立つ春さんの日々を追っていくが、頑固で気難しい親の世話をするように春さんに話しかける飼育員の方も感動的で、フト、命に寄り添うということばが浮かぶ。ただラストがくどすぎる。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      学生時代は天王寺動物園の近くに住んでいたので、見知ったゾウの最期を感傷的に眺めたが、感動を押し付けすぎない作りは好感(音楽は湿りすぎだが)。ゾウで描く高齢化と終活という内容だが、ゾウが飼育員をランク付けしていて、下位カーストの飼育員がゾウに蹴りを入れたり、「すまんなあ、無理言うて」と、なだめたり威したりしながら〈労働〉として愛想をふりまくよう送り出す姿がいい。パンダにタイムカードを押させた『パンダコパンダ』以来の動物園で労働する動物を描いている。

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