カンパイ!世界が恋する日本酒の映画専門家レビュー一覧
カンパイ!世界が恋する日本酒
ここ数年、日本酒は日本だけでなく、世界中で寿司と共に人気を博している。ミニマムでシンプルな外観の美しさの奥に多様さ、複雑さ、そして芳醇な文化的背景を隠している日本酒には、大いなる魅力と曖昧さに溢れた深遠な世界が広がっている。本作では、外国人として史上初めて杜氏となり、新商品を次々に世に送り出しているイギリス人フィリップ・ハーパー、日本酒伝道師として、日本酒ワークショップや本の執筆などを通して日本酒の魅力を世界へと発信し続けているアメリカ人ジャーナリストのジョン・ゴントナー、そして震災に揺れる岩手から世界中を飛び回り自ら日本酒の魅力を伝えている老舗酒蔵を継ぐ南部美人・五代目蔵元の久慈浩介の3人のアウトサイダーたちの挑戦と葛藤を通し、日本だけにとどまらず、世界で多くの人々を魅了する日本酒の世界を紐解いていく。
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映画評論家
北川れい子
“南部美人”の五代目蔵元のチャレンジ精神に頭が下がる。日本酒に魅せられ、杜氏となったイギリス人も、日本酒伝道師(!?)のアメリカ人も、ビジネスということだけではない、日本酒と共に生きるという姿勢が感じられ気持ちがいい。取材範囲も幅広く、アメリカで日本酒造りをはじめている男性の取材など、伝統や文化等の畏まった姿勢とは無縁で面白い。とは言え、こちらがビールを2センチ飲むのがやっと、というクチのせいか、このドキュも日本酒業界の変わり種のPRレポートの印象も。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
構成や情報の盛り込み方などがとてもよく出来ていて、日本酒についての知識があまりなくても面白く観ることができるように作られていると思う。僕は体質的に全然アルコールを受けつけない下戸なんで、日本酒を飲むという体験もほとんどないが、尾瀬あきらの漫画『夏子の酒』(これはほとんど、酒の国のナウシカ、とでも言える異色の酒醸造漫画)とか、『美味しんぼ』の日本酒にまつわるエピソードなんかを読むたびに自分が飲めないことが悔しかったが、本作もまたそう思わせた。
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映画評論家
松崎健夫
土着的な印象のある日本酒を描いた本作に、どこか都会的な印象を持つのは、メトロポリタンな旋律のフュージョンを音楽に採用しているからである。映画冒頭で語られる「酒と非日本食を合わせること」は、本作で描かれる「外国人が酒蔵に関ってゆくこと」と同じ側面を持っているように思える。そもそもビールだって外来“酒”だったではないか。そのことは、本来〈映画を批評する側〉を生業とする小西未来監督が、〈映画を製作する側〉という異業種に挑む姿とも重なってゆくのである。
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