いいにおいのする映画の映画専門家レビュー一覧

いいにおいのする映画

夢見がちな少女が“光の魔術師”になろうと奮闘する姿を映し出す青春ファンタジー。進路に悩む女子高生レイは、幼なじみで初恋の相手カイトを通じVampilliaのライブを訪れる。そのステージ照明に心を動かされ、照明技師の道を歩み出すが……。監督・脚本は『神隠しのキャラメル』の酒井麻衣。出演は、本作で映画デビューを飾る金子理江、「百円の恋」の吉村界人、「5つ数えれば君の夢」の音楽を担当したVampillia、TV『スクール!!』の中嶋春陽。2015年8月22日より東京・新宿 K's Cinemaにて開催された『MOOSIC LAB 2015』でグランプリ、観客賞、ベストミュージシャン賞、最優秀女優賞、最優秀男優賞、男優賞を受賞。
  • 評論家

    上野昻志

    モノクロ・スタンダード、加えてパートカラーと、ヴィジュアルに凝っている。それにふさわしく、蝋燭のショットや影絵を出すなど、監督の志向=嗜好は一貫している。このような画が見たいのだということがはっきりしているのだ。ただ、蝋燭の灯りは、それに反照する顔なりモノなりがあって映えるのだが、そこをいまひとつ工夫して欲しかった。物語は、かなりミニマルで、広がりに欠けるが、それを救っているのが、Vampilliaの音楽だ。それが、この閉ざされた世界を、最後に開く。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    漫画『ナニワ金融道』の作者青木雄二にはこの社会を乗り切り倒せ的エッセイが多いが、そのなかで、好きなことやって生きるのは成功と失敗が才能と運頼み、読みも効かぬからやめろ、みたいなことを書いている。だが私は今の世の中は安定すら低水準すぎるから皆やりたいことがあればやるべきだと思う。影絵遊びが好きな娘が照明パーソンになる。いいではないか。十七歳から好きで覚えた映写こそが結局一番自分を食わせたことだったという私には本作のその部分は他人事ではなかった。

  • 文筆業

    八幡橙

    不可思議な手触り。仄かな笑いあり、ピュアな初恋あり、核として貫かれる音楽あり、淡きエロスあり……。そして、究極のところ日本版「ぼくのエリ」とも呼びたいテーマもあり。「Dressing Up」の安川有果、「春子超常現象研究所」の竹葉リサ、そしてこの酒井麻衣と、若き女性監督たちが醸すダークでありつつ軽やかな妙味に、日本映画の一縷の希望を見る。ただ、モノクロの世界がとりどりの色で煌めく瞬間から本作最大のクライマックスにかけて、終盤やや甘さに偏りすぎる気も。

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