火 Heeの映画専門家レビュー一覧

火 Hee

女優の桃井かおりが「無花果の顔」以来、10年ぶりに主演兼任で手掛けた長編監督第2作。原作は芥川賞作家・中村文則の短編『火』。アメリカで暮らす精神科医の真田は、幼い頃に火災で家族を亡くした女性の問診を続けるうちに、その話に引き込まれてゆく。2016年開催の第66回ベルリン国際映画祭フォーラム部門でワールドプレミア上映された。
  • 映画評論家

    北川れい子

    その存在に、どこか自由な荒野を感じさせる、桃井かおり。女優業に侵食されていないように見えるのも私にはカッコいい。そんな彼女が監督・主演する本作は、桃井かおりが漂わせる自由な荒野を、もう若くない娼婦にそっくり重ね、しかも本人が自分を消さずに演じているだけに、くすぐったいほどリアリティがある。むろん、自由と荒野の必然的な代償である孤独や不安も。自分で自分を持てあましているような。ともあれ、万人向きではないが、ロスでこの作品を撮った彼女はやはりカッコいい。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    昔、桃井かおりが「世の中、バカが多くて疲れません?」(苦情があって「バカ」は「利口」に差し替わった)と言う栄養剤のCMがあったが、彼女はいかにもこういうことを言いそうで、その率直さや毒は誰しもが持ち、発露したい部分であり、それの代弁者であることが彼女の人気と魅力の一部だろう。本作はついに辿り着いた「キチガイ(もしくは、マトモぶる奴)が多くて疲れません?」の域。面白い。クドさとキツさに心地よく呑まれた。我儘極まりない昔の彼女のことを思い出した。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    小説に書かれた文字を、映画で表現するための文字として書き起こした脚本。その文字に費やされる〈時間〉が即ち、作品のリズムやテンポとなる。本作の〈時間〉感覚が原作の其れとよく似ているのは、会話の〈間〉のようなもの、或いはズームに必要な〈時間〉に起因している。精神科医が個人を探ることを示唆するため顔のクロースアップが多用されているが、時折カメラは〈寄り〉から〈引き〉のズームで全体像を見せてゆく。それはまるで、火が燃え広がってゆく様に似ているのである。

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