ふたりの桃源郷の映画専門家レビュー一覧

ふたりの桃源郷

日本民間放送連盟賞エンターテインメント部門優秀賞をはじめ多数の賞に輝いた山口放送のドキュメンタリーシリーズを、開局60周年を記念し映画化。山で暮らす夫婦と支える家族を25年・2世代にわたり追いかけ、現代の“幸せの形”を問いかける。ナレーションは「ALWAYS 三丁目の夕日」の吉岡秀隆。2016年第90回キネマ旬報ベスト・テン文化映画第一位。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    このドキュメンタリーで起こっていることは現実だろう。しかし不幸なことに、私には途方もないメルヘンであるかのように思われた。老夫婦二人が、電気もガスも通っていない山深い土地に隠遁する。やがて末期ガンを患った老父のために、都会にいた娘夫婦が移住してきて親孝行をする。わが親不孝を思うとき、この事態を平常心で見ることは難しい。そして老父の死。ボケた妻は亡き夫の面影を求め「お爺さーん!」と叫びを止めない。老婆の美しい呼び声が、透徹して山に響きわたる。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    巻頭、空撮で捉えられたちっぽけな耕作地が、最後は人が生きた証として大きく見えて。山間に暮らす老人夫婦の愛嬌。その飾らない表情に作り手との信頼関係が窺え。お婆さんの遥かなる山の呼び声、その2回の繰り返しが切ない。もう少し人物の気持ちを、ナレーターではなく本人の口から聞きたかった。終盤の母娘愛の描写はさらりでよかったのでは? それよりも山間生活の魅力(魔力?)をもっと観たかった。といった欲は出てくるものの、25年もふたりを追い続けた、その愛は篤く。

  • 映画ライター

    中西愛子

    25年前、山口放送は山で老後の生活を始めた70代の夫婦を取材する。そこから少しずつ撮影を続け、ゆっくりと変化していく夫婦とその家族の長きにわたる日々を記録した。まず主人公となる寅夫さんとフサコさんがとても魅力的。そして、ふたりの進行する老いに向き合う娘さんたちの姿に教えられるものがある。これだけの歳月の間には、撮る側と撮られる側の間に葛藤もあったかもしれないが、丁寧な粘りの記録は、老いや家族の真実を確かに映し出している。温かさの中に凄みを感じた。

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