園子温という生きものの映画専門家レビュー一覧
園子温という生きもの
「冷たい熱帯魚」などの鬼才、園子温に密着したドキュメンタリー。映画製作のみならず小説や絵、バンド活動に没頭する姿を捉え、「ヒミズ」の染谷将太、二階堂ふみ、女優で妻の神楽坂恵といったゆかりの人物による証言から園子温の実像に迫っていく。監督は「シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録」の大島新。2014年にMBS『情熱大陸映画監督・園子温』を手掛けたが、地上波では園子温の面白さは伝えきれないと映画化を決断。
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映画評論家
北川れい子
2014年の『GQ Men of the Year』の1人に選ばれた園子温は、色紙に“量”と書く。質より量の意味か。なるほど、量が質に転じることは可能だろうが、質は滅多に量にはつながらない。要は数打ちゃ当たるってことで、撮った者勝ちってこと。そして思ったのは、園監督の巧みな商才。時代や流行、世間を挑発して自らをブランド化するそのテクニックは、このドキュメンタリーからも伝わってきて、それには感心する。けれども私は、監督の姿勢としては作品の裏にいる人の方が好み。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
園子温が、このドキュメンタリーを観る者のために、ほどよくそれらしいキャラを演じているのではないかとも思うが、そうだとしても日々創造する人間のドライヴ感があって観ていて楽しい。神楽坂恵がいい奥さんっぽく、彼らが似合いの夫婦らしく見え、ほのぼの系の軽い衝撃。本作に記録される、俺を見て! 的なエネルギーの散り方が、近年のブレイク以降の園作品に時折見受けられる雑さの原因のような気がするが、明らかにこの人はそれで自分を盛り上げてもいてその良否は問えない。
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映画評論家
松崎健夫
本作は同時期に公開される「ひそひそ星」のサブテキスト的な作品ではない。また、園子温の人生を知るためでもなければ、映画監督という職業が何であるかを考察するためのものでもない。描かれるのは、異端と王道の狭間で揺れる園子温という表現者が、世の中が寛容でなくなったことを憂い、繊細であるが故に苦悩する姿。同時に、その姿を偉大な映画監督を父に持つ息子が取材している、という指摘からも本作は逃れられない。つまり、ふたつの異なる苦悩が衝突する映画なのである。
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