サムライと愚か者 オリンパス事件の全貌の映画専門家レビュー一覧

サムライと愚か者 オリンパス事件の全貌

老舗光学機器メーカーのオリンパスによる巨額の損失隠しと不透明な企業買収工作が明るみになった、オリンパス事件の内幕に迫るドキュメンタリー。不当解雇された英国人元社長の体験談や記者ら当事者のインタビューを交え、全貌を浮かび上がらせる。監督は短編「わたしが沈黙するとき」の山本兵衛。本作が初長編作品となる。イギリスのBBCなど5ヶ国の放送局の協力のもと制作され、「マン・オン・ワイヤー」を手がけたBBCのプロデューサー、ニック・フレイザーや、「地雷を踏んだらサヨウナラ」ほか数々の映画を製作してきた奥山和由らがエグゼクティブ・プロデューサーとして参加している。
  • 評論家

    上野昻志

    インタビュー中心だから、ドキュメンタリー映画としてはダイナミズムに欠けるが、莫大な損失を隠蔽した「オリンパス事件」がテーマだけに、東芝の粉飾決算などにもつながる。そこで明らかになるのは、企業内で不都合な問題が起こると、それを隠蔽し、不正を告発する者を排除する体質だ。そこには、忖度も働けば、組織存続のためという「大義名分」もある。ということは、公文書の書き換えや隠蔽が日常化している日本の国家行政機関の体質そのものを照射する映画でもある。

  • 映画評論家

    上島春彦

    内容は面白く、日本の社会組織のあり方のダメなところもしっかり分かった。オリンパス・スキャンダルの件は全然知らなかったが、恐ろしいのはこの企業がこれだけの事件を起こしてもほとんど反省していないことだ。ただ、損失隠しが犯罪だという認識は、よく考えると日本人一般にはないのではないか。身内の恥は隠して当然という感覚の方が勝っているような気がする。私にしてからがそうだしね。反省します。星が伸びなかったのは、手法があまりに報道番組的で映画っぽさを欠くため。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    オリンパス事件の概略と解任された外国人社長のインタビューで過不足なく構成され、ネットで配信されていれば見入りそうな作り。キャラとしてはかなり面白そうな雰囲気を醸し出すウッドフォード元社長の奇抜な言動がプロダクション・ノートにしか書かれておらず、この膨らみと余白にこそ映画としての可能性があったのではないか。日本人と外国人の根源的な文化の違いにまで視点を伸ばせる題材だけに、欲が出る。奥山和由のクレジットに松竹解任事件のドキュメンタリーも観たくなる。

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