シリア・モナムールの映画専門家レビュー一覧
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映像演出、映画評論
荻野洋一
冒頭、分娩されたばかりの赤ん坊を産湯につける映像で始まり、その無垢のイメージが、衣服を?ぎ取られた被拷問者の裸体へと容赦なく接続される。一〇〇一人のシリア国民と「私」が撮影した映像からなるとクレジットされた本作は、夥しい数の死体、負傷者、爆撃された建物のショットを提示する。戦時下に生きるクルド人女性監督が撮ってはアップしてよこす映像を、安全地帯パリに亡命した男性監督が、罪悪感まじりにまとめた絶望、恐怖そして勇気。映画の限界値を超えている。
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脚本家
北里宇一郎
いま、そこにあるシリアの状況を、どう映画にしようかと迷っているような作品で。監督は千一夜物語ならぬ千一の映像をコラージュする。そこにあるものは、おびただしい死体だ。男たちの、女たちの、子どもたちの。そして自分が愛する映画の断片をモンタージュして、自己の心情と重ねあわせようとする。こちらはその混沌を見つめるしかない。監督の苦悩に、なんとか近づこうと意識を働かせながら。この錯綜の果てに、いつか監督の想いが結実された作品が産まれることを祈って――。
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映画ライター
中西愛子
シリアの内戦が続く中、市民が自国の惨状を撮影し動画サイトにアップしたもの、およそ千人の目による証言映像が、本作のメインの素材になっている。拷問、殺戮といったダイレクトな暴力や死の累々。そんな映像の荒いつぎはぎがスクリーンを埋め、観客は直視する苦痛を覚えるだろう。けれど中盤、監督である男のモノローグに、女の声とまなざしが加わった時、本作のタイトルを改めて?みしめてしまう。愛という哲学は、戦場のオアシスであり未来である。これは思索の映画なのだ。
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