ひと夏のファンタジアの映画専門家レビュー一覧

ひと夏のファンタジア

河瀬直美監督がプロデューサーを務める、映画をめぐる日韓合作ファンタジー。次回作の構想を練りに奈良に来た韓国人監督テフンは、五條市の人々と触れ合う中で、物語を生み出していく。監督と人々の邂逅を追う第一部と監督が紡ぐ恋物語の二部構成。本作を手がけたのは、「つむじ風」「眠れぬ夜」のチャン・ゴンジェ監督。「サニー 永遠の仲間たち」のキム・セビョクや「イエローキッド」の岩瀬亮が、第一部・二部とで演じ分けている。韓国のインディペンデント・フィルム・プロダクションMOCUSHURAとともに、なら国際映画祭実行委員会が製作に参加している。「アジアシネマ的感性」2024年8/23~9/5シモキタエキマエシネマK2にて上映
  • 評論家

    上野昻志

    静かな映画か! まあ、意味もなく騒々しい『TOO YOUNG TO~』などのあとでは、一服の清涼剤という印象ではあるが。韓国の監督が奈良県五條市をシナリオ・ハンティングするという前半は、間の空き方が、街の静かな佇まいと相俟って独特のリズムを生み出す感じが好ましいが、後半の韓国から来た女性を案内するうちに、男が彼女に惹かれていくという淡いラブストーリーのほうは退屈。一カ所、彼女が弾く木琴が、前半部の幻の少女が弾く木琴を呼び起こすところはいいが。

  • 映画評論家

    上島春彦

    完成度が高い割には習作みたいな感じがつきまとう。不思議。きっちり二部構成にしたのがかえってハンパな印象だ。実際はどちらもドラマなのに取材篇&劇映画篇と思わせて損しているね。同じ写真が前後半で違う意味に使われるのは良いし、そこをもっと押して欲しい気がする。前半ラストから、手塚治虫の『雨降り小僧』みたいな幻想譚に移行するかと期待したがそうでもなかったのは残念。私のような凡人にはオチがあるようなないようなどっちつかず、リアリズムの恋物語は正直辛い。

  • 映画評論家

    モルモット吉田

    土地勘のある河瀨直美プロデュース作だけあって、観光色も無縁に夏の誰もいない町を歩き続けるだけで土地の磁場と呼応した世界になる。2つの挿話は共に韓国人と日本人が交流するが、通訳を介したり、片言の日本語だけで理解せねばならず、それを省略せずに見せるからもどかしい。しかし、そのリズムに慣れるとそれが当然となって彼女たちの感情を注意深く追うようになり、後半の恋愛が生まれる過程を味わい深く眺める。同じ俳優が二役で演じることを強調しない無欲さも好ましい。

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