海へ 朴(パク)さんの手紙の映画専門家レビュー一覧

海へ 朴(パク)さんの手紙

    シベリア抑留を経験したひとりの韓国人男性の人生とその想いを綴るドキュメンタリー。1944年、日本軍に入隊した朴道興(パク・ドフン)。配属先の色丹島で出会い、終戦後、収容所で生き別れた親友の山根秋夫へ何度も手紙を送るものの、それが届くことはなかった。監督は新鋭・久保田桂子。同監督による第1作「祖父の日記帳と私のビデオノート」と併せて「記憶の中のシベリア」として公開。
    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      日本軍人であることが「楽しかった」と率直に語る元シベリア抑留兵の韓国人男性パクさんが戦後も断続的に投函し続け、そのたびに宛先不明となってきた手紙の言葉たちがいま、一人の日本人女性ドキュメンタリストの媒介によって、然るべき場所へ着地しようとしている。宛先不明の主である元日本兵・山根さんはどこへ行ってしまったのだろう。戦争の記憶を呼び覚ますドキュメントでありながら、探偵映画のような面白味もほのかに漂わせつつ進んでいく。異色の日韓戦友秘史である。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      韓国のお爺ちゃんと広島のお婆ちゃん、その人柄のよさが引き出され。それよりも監督の優しさが滲み出て。だけど、日本兵として戦った韓国人がいてシベリア抑留の話があり、一方、戦友の日本人は帰国後、共産党員として活動――となると、これでは物足りない。取材相手と仲良くなりましたでは単なる日記なんで。この監督、欲がないというか、好奇心が不足の気がして。自分が知りたい、聞きたいことがあればもっと喰らいつくはず。対象の眼のつけどころとか、取材力はあるのに。勿体ない。

    • 映画ライター

      中西愛子

      シベリア抑留の経験を祖父に持つ新進監督・久保田桂子が、孫の世代から戦争を見つめたドキュメンタリー。日韓のシベリア抑留者の体験談を聞く取材の中で出会った朴さん。彼はシベリアで時間を共にした友・山根さんの記憶を大切にしていた。監督は山根さんを探し、やがてすでに亡くなっていた彼の妻に会う。戦友と妻の愛情溢れる証言、またそれぞれの行間から、ひとりの日本人の人生、ひいては戦争の時代と痕跡が見えてくる。優しいタッチだが、掘り下げているものの奥行は深い。

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