こころに剣士をの映画専門家レビュー一覧

こころに剣士を

ナチスとスターリンに引き裂かれた1950年初頭のエストニアを舞台に、伝説の元フェンシング選手と子供たちをめぐる実話を映画化。ソ連の秘密警察に追われ、小学校教師として田舎町に身を隠すエンデルは、課外授業で生徒たちにフェンシングを教え始めるが……。監督は「ヤコブへの手紙」のクラウス・ハロ。出演は、エストニア出身のマルト・アバンディ、『ケルトゥ/愛は盲目』のウルスラ・ラタセップ、「みかんの丘」のレンビット・ウルフサク。
  • 翻訳家

    篠儀直子

    社会主義体制が崩壊して20年ほど経ち、当時のことを距離をとって振り返ることがそろそろ可能となって、さまざまな角度、さまざまなタッチの映画が各国で製作されているわけで、ここでも教師と子どもたちのふれあいドラマかと思って観ていると、それとなくほのめかされていた子どもたちの境遇が明らかになった瞬間、胸を衝かれる思いがする。秘密警察に追われる状況と、1秒で形勢が逆転するものであるフェンシングの試合とを重ねた演出が、スリルを高めていてなかなかのアイディア。

  • 映画監督

    内藤誠

    フェンシングの騎士道精神をもってスターリニズムに対決する物語だが、主人公は「灰とダイヤモンド」のマチェックのように黒メガネを掛けてヒロイックな行動をとるわけではなく、ただ体制の変わったエストニアの小さい町に逃げてきて、平凡に暮したいと思っている青年だ。脚本と配役のキメが細かく演出も端正。それだけに淡々と剣術を教え、過去、ドイツ軍の許でソ連と闘わざるを得なかった青年のもつ日常生活の不安はよく伝わってくる。実話だとすれば、政治的視点も入れてほしかった。

  • ライター

    平田裕介

    監督はフィンランド人、舞台はエストニア、題材はフェンシング。個人的に馴染みの薄い要素が並ぶが、杞憂に終わった。秘密警察の追跡、子供たちとの絆、ナチスとスターリンに虐げられた者たちの憤怒と誇り、そして強豪チームに挑む子供たちと、いやが上でも燃える要素を盛り込み、それをきっちりと脚本と演出が機能させている。こうなってくると、主人子と教え子らが剣を一突きするごとにこちらの感情スイッチもいちいちオンになって最後は涙。地味な印象が強いが、激アツな逸品!

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