娘よの映画専門家レビュー一覧

娘よ

実話を基に鉄の掟から逃げる母娘を描き、第87回アカデミー賞外国語映画賞パキスタン代表作品に選ばれた人間ドラマ。部族間の衝突を解決するため相手方の老部族長と幼い娘が結婚することになり、娘を守ろうとした母アッララキは彼女と共に部族から逃げ出す。長編劇映画を初めて手がけたアフィア・ナサニエル監督が、パキスタンの大自然を背景に緊迫の逃避行を活写する。舞台で活躍するサミア・ムンタツらが出演。
  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    母娘がパキスタンの封建的な家父長制からの逃走を試みる。米国に移住したコロンビア大卒の女性監督、という外部化された視点による伝統的人権意識への力強い批判。ただし映画の中盤以降は、人妻の不倫旅行に堕する危険性も生じる。そうなると批判する側の潔白性も弱まり、かといって近松的な破滅の道行きにも依拠できない作者は、シナリオに苦心したのではないか。逃走描写に安手のアクション映画演出が施される点は残念至極。娯楽性との融合が垢抜けない。ロケの絶景は圧巻。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    十歳の女の子が初老の族長の嫁になることに。さあ大変と母親が娘を連れて逃避行。そのハラハラが要となるが、パキスタン山岳地帯の風景が珍しく、母娘を助ける運転手のトラック、その祇園祭の山鉾みたいな形体も面白い。演出は堅実な筆遣い。そこが逆にサスペンス効果を上げて。部族抗争の行方が曖昧だったり、結末にもう一工夫ほしいという欲も。が、かの国の女性が置かれた立場を、シリアスな告発調ではなく、追っかけ映画のスリルで描いた、この新人監督のスピリットは大いに認めたい。

  • 映画ライター

    中西愛子

    パキスタンの山奥で、2つの部族間の争いを収めるために、老部族長と幼い娘の婚姻が決まる。その事実を知った母は、娘を連れて逃避行に出る。女性を縛る古い因習を批判したアジア映画かと思いきや、アメリカで映画を学び、現在はNYで活動するパキスタン人女性監督が撮ったこの作品は、むしろ痛快なロードムービーといった趣。エンタテインメントとして楽しめるが、テーマ性は意外とあっさりしている。鮮やかな色のショールを羽織り、己を貫く母と娘の美しさが頼もしくて印象的。

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