人類遺産の映画専門家レビュー一覧

人類遺産

    「いのちの食べかた」のニコラウス・ゲイハルターが、4年の歳月を費やし、日本を含む世界70カ国以上に及ぶ廃墟の風景を独特の映像美で切り取ったドキュメンタリー。一切の説明を排した誰もいない廃墟の風景から、臨場感と不思議な生命力が伝わってくる。第66回ベルリン国際映画祭でフォーラム部門に出品された。
    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      世界中の廃墟の実景が、20秒程度の等間隔で自動スライドのように写し出される。虫や鼠は写るが、人間は一度も写らず。人類滅亡後の風景はかくやと思わせる未来の透視図。いや違う。この無人ショットの集積は、演劇で言う「空舞台」であり、大和絵で言う「誰が袖」である。今はもういないが、つい先ほどまでその人がいた。廃墟の住人、廃墟を建てた建築家、彼らの「面影」がじつに人間臭く焼きつけられている。そしてカメラの実在。「空舞台」という名のカメラの専制である。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      廃墟の風景が固定されたキャメラで捉えられる。画面は数十秒ごとに転換されていく。ただ、それだけの九四分。最初は、ここどこだろうと思う。福島の無人の駅とか町とかが映る。同様にいわくつきの風景が次から次に綴られる。が、その背景は語られない。気になったところは後で自分で調べろってことか。なんだか地球にひとり生き残って、世界中を放浪してる気分になる。やがて退屈して。これは美術館で展示した方がふさわしいんじゃないかと思う。映画って時間の芸術だよなあ、とも。

    • 映画ライター

      中西愛子

      アメリカ、ブルガリア、日本、アルゼンチン……。人類が踏み込み、捨て去った世界の70ヶ所以上に及ぶ廃墟が風景としてひたすら映し出される。人は登場しない。ナレーションも音楽もない。そこがどこかを記す文字による説明さえも。廃墟を広角でとらえた数十秒の1カットが、静かに物々しくつらなっていく。その廃墟は確かにストーリーを感じさせるし、美しくも悲しく、今そこに存在することが不思議だ。ある意味、究極に観客の想像力を信じた作品。ただ、私にはこの94分は長かった。

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