南瓜とマヨネーズの映画専門家レビュー一覧

南瓜とマヨネーズ

揺れる心情を繊細に描写した魚喃キリコの代表的恋愛コミックを「ローリング」の冨永昌敬が映画化。ミュージシャン志望のせいいちとの生活を支えるため、キャバクラで働くツチダ。忘れられない元恋人ハギオと再会し、過去にすがるように彼にのめり込んでいく。2つの恋に揺れるツチダを「愚行録」の臼田あさ美が、スランプに陥り働かないせいいちを「走れ、絶望に追いつかれない速さで」の太賀が、ツチダが引きずる元恋人ハギオを「オーバー・フェンス」のオダギリジョーが演じる。また、冨永昌敬監督作「乱暴と待機」の主題歌にも参加したやくしまるえつこが音楽監修を手がける。
  • 映画評論家

    北川れい子

    以前、誰かが(名前を失念)明治以降の文学のほとんどは、女は姓は無視され下の名前のみで登場すると新聞のコラムで書いていて、ナルホドと思ったことがある。ところが魚喃キリコの漫画を原作にしたこの映画では、ヒロインはツチダで、同棲相手はせいいち、元カレはハギオ。苗字とか下の名とか、さして意味はないのだろうが、そのツチダの小さな世界での愛と未練、金魚鉢の中を泳ぐ金魚のようで、いいんじゃないの、ツチダが良けりゃ。にしても金ほしさに愛人契約とは軽いツチダ。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    監督冨永昌敬は実験的というか前衛的というか、映像と音響がエッジをきかせたままゴロンと観客に投げ出される映画を細心の注意を払いつつつくってきたが「ローリング」以降、ようやくその現代性とナラティブが連係するようになった。本作もまたその結晶。青春映画になるにはもう遅い女と男を描いた、青春に引導を渡す映画。原作からして良い。漫画原作で恋愛が題材で、だが、ションベン臭いキラキラ映画どもに煙草の煙を吹きつけて追い払うオトナのオンナノコの映画。素晴しい。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    魚喃キリコ作品のコマには〈余白〉がある。この〈余白〉は漫画特有の表現。実写では周囲のモノが映り込んで被写体を際立たせるには限界がある。本作では、クロースアップで漫画のコマを再現することで全体の印象を寄せている。また、相手の“におい”を嗅ぐ場面が何度もあり、“におい”によって「人と人」=「男女」の関係を効果的に描いている。「近くにいるのになぜか遠い」という男女の関係を描いてきた魚喃作品とイメージが乖離していないのは、この距離感によるものでもある。

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