きらめく拍手の音の映画専門家レビュー一覧

きらめく拍手の音

    これが初の劇場公開作となるイギル・ボラ監督が、耳の聞こえない両親の日常を温かな眼差しで見つめたドキュメンタリー。互いに耳の聞こえない2人が出会って結婚。2人の子どもが生まれるが、耳の聞こえない夫婦にとって、育児は苦労の連続だった……。山形国際ドキュメンタリー映画祭2015で、アジア千波万波部門特別賞を受賞した。2017年4月16日、下高井戸シネマにて開催された特集企画『優れたドキュメンタリー映画を観る会 vol.33"夏の嵐のあとに" 』にて先行上映。
    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      ろうあの両親を長女がカメラで記録する。そこでは2つの事柄が並存し、ぶつかっている。聴覚/非聴覚。外の世界を見たいという遠心力/両親と弟にとって良き娘、姉でありたいという求心力。両親の手話と身振りの賑やかさ/作者のモノローグの静謐さ。「イ」の父姓/「キル」の母姓。落ち着き払った本作の語り口の背後に、深い葛藤が見え隠れする。単なるホームムービーは居間の余興にすればいい。本作が一般観客を呼び、国境まで越えるのは、葛藤の痕跡ゆえである。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      障がい者のドキュメントというより、自分の両親を記録し伝えようという作品。それゆえか気どりがない。聾夫婦がただそこにいる。この当たり前の感覚がよくて。障がい者の家庭が普通だと育った娘が、成長して健常者の社会に戸惑う。そこからの葛藤を見たかったという欲も出る。だけど、聞こえぬ父母がカラオケで、音程もリズムも関係なく伸び伸びと歌い、楽しむ。それを子どもたちが自然に受け止めている。この場面に、こうやってこの家族は生きてきたんだというそれまでが見えて。沁みた。

    • 映画ライター

      中西愛子

      耳の聞こえない父母の日常と家族の物語を、韓国の若き監督が娘の目線でとらえたドキュメンタリー。監督のイギル・ボラは、子どもの頃から“両親はろう者です”と、出会う大人たちに説明し、通訳して社会と向き合ってきたという。歳月を重ねて培われた彼女の経験と観察力が、みずみずしくも深く、健常者とろう者の世界の狭間を掬い取る。お父さんとお母さんがとても素敵。自然とふたりの世界が出来上がってしまうほど、仲がいい。力みのない作品ゆえ、よりこの家族の強さを感じる。

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