立ち去った女の映画専門家レビュー一覧
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映像演出、映画評論
荻野洋一
生を営む上で最も大事なものを喪失したひとりの女性。本作は彼女の行く末をただただ追う。それだけに4時間もの時間を費やしても、いっこうに差し支えない。狂気の沙汰である。しかし今日、映画を作ることそれじたいが狂気の証左ではないのか。彼女は生涯の怨恨相手を倒すために、周到に作戦を立てる。そして作戦遂行のトリビアルな日々に尾鰭が付いてくる。フィリピンの昼夜は現実と幻想のあわいにあって、私たち観客を静謐に巻き込んでゆく。現代映画の最高傑作の一本だろう。
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脚本家
北里宇一郎
復讐を企てる中年女性。彼女に絡む卵売り男、ホームレス女性、ゲイの街娼。出てくる人物たちは面白い。設定も興味を惹く。だけど話は一向に弾まない。物語のパターンをあえて外した、というよりこの監督、そもそも脚本が分かっていないのでは。ただただその場の思いつきと気分で映画は進行する。最近流行りの超長廻し演出。それは時たま効果を上げているが、大半は忍耐を強いられて。こういうのが映画祭では受けるんだ。ひょっとして最初からそれを狙ってたりして。だったら目論見通りで。
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映画ライター
中西愛子
冤罪で30年の歳月を刑務所で過ごした女。無実が証明された釈放後、彼女を陥れた元恋人の男に復讐すべく立ち上がる。モノクローム映像の1シーン・1カットは、シンプルでありながら、それぞれに1つのドラマが成立するくらいの情報とスリルが凝縮されている。ヒロインの復讐者、母、女、市民としての多面な顔が、ロング・ショットの語り口から迫るように見えてきて、いつしか物語に引き込まれる。フィリピン文化にある人間の魂を、長尺で描き出すラヴ・ディアス映画を体験すべし。
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