望郷(2017)の映画専門家レビュー一覧
望郷(2017)
「少女」など映像化が続くミステリー作家・湊かなえの同名連作短編集収録の『夢の国』『光の航路』を映画化。しきたりを重んじる家に育ち島に縛られる夢都子。確執を抱えたまま死別した父の本当の思いを知った航。二人はそれぞれ葛藤を胸に、故郷と向き合う。監督は「ハローグッバイ」の菊地健雄。小説の舞台のモデルであり、湊かなえの出身地でもある瀬戸内の因島を中心に撮影された。主演は、同じく湊かなえ原作の「白ゆき姫殺人事件」でも共演した貫地谷しほりと大東駿介。一般公開に先駆け、特集企画『カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2017』シークレット作品として上映(上映日:2017年8月11日)。
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映画評論家
北川れい子
不勉強で湊かなえの原作は知らないが、「望郷」といえば往年の名作のアルジェ、カスバ、ペペ・ル・モコ、その連想でさぞや心をえぐる哀切な話と思いきや、拍子抜けするほどささやかな話で、というよりもエピソードを長く延ばしたよう。厳格な祖母が支配していた家を出てささやかな家庭を築いたヒロインと、9年ぶりに故郷に戻った幼馴染みの男の、それぞれの子ども時代の思い込みが描かれるのだが、遊園地や石の地蔵などの使い方も騒ぎ立てる割には他愛なく、舞台も島に見えない。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
カットも演出も過不足がなく的確(ゆえに役者が皆良く見える)、しかしここぞというところで非日常というか、けれんみのあることをやる。映像のボキャブラリーが豊富であり、そのことがちゃんと感動を呼びもするだろうし、映画に意識的あるいは悪ずれしたような観客も面白がらせる。監督菊地健雄の良さは天才肌というより助監督経験を積むなかで優れた監督たちの出汁を吸収した大根的なものではないか。こういうひとは先が続く。これからも丁寧な良い仕事を続けていってほしい。
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映画評論家
松崎健夫
「たかが、近くの遊園地に行けないだけの話じゃないか」と思う人もいるだろう。しかし少なくとも、かつて僕の周囲には本作の主人公のような人たちがいた。自転車で回れる範囲の物事が人生のすべて、そんな人たち。それは地方において、何ら特殊なことではないのだ。監督がロケーションにこだわったことで、瀬戸内独特の風土だけでなく、海風が運んで来る“におい”のようなものまで感じさせる。人物の内面と同期する射し込む光の明暗という照明が、映像の中で効果的に機能している。
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