顔たち、ところどころの映画専門家レビュー一覧
顔たち、ところどころ
ヌーヴェル・バーグを代表する女性映画監督のアニエス・ヴァルダと、ストリートアーティストJR(ジェイアール)の2人がフランスの田舎を旅しながら、村々に住む市井の人々と接し作品を一緒に作り残していくロード・ムービースタイルのドキュメンタリー。2017年に第70回カンヌ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、第90回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたほか、各国の映画祭で受賞を重ねた。
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批評家、映像作家
金子遊
A・ヴァルダとJRは田舎に行くだけで、その場をワンダーランドに変える。巨大な写真グラフィティと少しのドキュメントによって、村の郵便局員が英雄になり、廃墟の町に人があふれ返り、港湾労働者の奥さんがコンテナ・アートの主役となる。アートは現実に介入し、その発想で人々を驚かせるが、映画もこれくらい自由になるといい。90歳のヴァルダがフランス映画祭での来日をキャンセルしたのは残念だが、原宿の個展で猫の写真と浜辺のインスタレーションを見たので満足だ。
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映画評論家
きさらぎ尚
土地とそこに生きている人とを素敵に描く作家。A・ヴァルダに長年そんな印象を抱いている。だからこの映画で創作する様子も同時に見られるのが嬉しい。計画を立てないで巡る先々での彼女には、人の生き様を大切にする姿勢がにじむ。それは作品の対象の人々に限らず、一緒に旅をするJRに対しても同じ。素敵の源流はこれだったのだ。なのに、ヴァルダへのゴダールの仕打ちに?然。なぜ……。ヴァルダの涙は切なすぎる。直前に見た「グッバイ・ゴダール!」で好感を持っていたのに。
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映画系文筆業
奈々村久生
ロードムービーの道すがらに出会う一般の人々を写した顔、顔、顔。相手と向き合い、言葉を交わし、カメラを向ける。そしてビジュアルの楽しさを追求する。そのシンプルな行為の美しさが際立つ。これは写真というツールがフィルムからデジタルに、紙焼きから液晶ディスプレイに転じても、驚くほど変わらない。ゴダールの「はなればなれに」のワンシーンを模して車椅子でルーブル美術館を駆け抜ける“ルーブルチャレンジ”に興じる80代のヴァルダと30代のJR。その関係性もまた尊い。
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