沈黙 立ち上がる慰安婦の映画専門家レビュー一覧

沈黙 立ち上がる慰安婦

「ぬちがふぅ(命果報)-玉砕場からの証言-」など朝鮮人犠牲者の声を記録してきた朴壽南監督が、元・慰安婦の女性たちの闘いを撮ったドキュメンタリー。半世紀の沈黙を破り日本軍の犯罪を証言、名誉と尊厳の回復を訴える彼女たちに寄り添い、その恨を映す。2016年韓国DMZ国際ドキュメンタリー映画祭特別賞<勇敢な雁賞>受賞。日本では117分の拡大版を上映。
  • 評論家

    上野昻志

    敗戦時に、不都合な記録は燃やして、なかったことにした伝統がいまも健在なこの国では、従軍慰安婦など存在しないと言い募る輩が跋扈しているが、であればこそ、パク・スナム監督の20年に及ぶ労作は貴重である。本作で、日本政府の謝罪と賠償を求める〈韓国「従軍慰安婦」被害者の会〉の女性たちも、次々と亡くなり、やがて一人もいなくなるだろう。すると、被害者不在をこれ幸いとばかりに居直るのは目に見えている。そのとき、この記録こそが、事実を証明するのである。

  • 映画評論家

    上島春彦

    ここまで日韓政府間合意がねじれてしまった以上、慰安婦問題にあまり関わりたくない、というのが普通の日本人の感覚だろうが、そういう人にこそ見てほしい作品。戦犯の孫による戦争加担合法化政権を大はしゃぎでもてはやす国民が過半数のこの国で、もう一つの戦争犯罪というべき性暴力被害を訴え続けることの大変さは傍目からもよく分かる。監督朴壽南のこの問題への取り組みの発端から現在までが手際よく語られ、必見。しかもそこに沖縄戦が影を差していたことの意味は極めて重い。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    元慰安婦たちの戦いが要した時間の長さを実感させるのは、記録された媒体の移り変わりだ。16ミリフィルムからビデオとなり、業務用カメラから民生機へと小型化し、不鮮明な画質が時代を経るごとにクリアになる。ところが事態は逆に不透明化していくのだから皮肉である。本作の趣旨に賛同するならこれで良いだろうが、無知も含め慰安婦を否定する声が大きい昨今、ホロコースト否定派との法廷劇「否定と肯定」ではないが、新たな描き方によって反証する必要が出てきたのではないか。

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