苦い銭の映画専門家レビュー一覧

苦い銭

「収容病棟」のワン・ビン監督が中国の出稼ぎ労働者を追い、第74回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門脚本賞およびヒューマンライツ賞を獲得したドキュメンタリー。過酷な環境下、縫製工場で働く人々の日常を通し、現代社会の歪な面を浮かび上がらせる。第17回東京フィルメックス特別招待作品(上映日:2016年11月22日、26日)。「アジアシネマ的感性」2024年8/23~9/5シモキタエキマエシネマK2にて上映
  • ライター

    石村加奈

    ヴェネチア映画祭脚本賞受賞の快挙も納得。雲南省から浙江省へ出稼ぎに出る16歳の少女から、少女と同じ縫製工場で働く25歳の女、彼女の夫婦喧嘩の仲裁に入る45歳の男……巧みに被写体をずらしながら、湖州に集う中国出稼ぎ労働者たちの人生いろいろを捉えるワン・ビンの流麗な眼差しよ! 遠巻きに眺めると深刻な夫婦喧嘩も、客に窘められる夫の弱さを具に見れば、犬も食わぬ感じもしてきて、被写体とカメラの絶妙な距離感は魔法の如く。「世界中どこでも塩は塩の味よ」は名言なり。

  • 映像演出、映画評論

    荻野洋一

    フィクションとドキュメンタリーを区別することは無意味だとよく言われる。王兵こそそれを最も実感させる現役の映画作家だ。フレーミングは何かを選択しているはずだが、選択をまったく感じさせない。何かが起こっているという絶対的確信が、編集を力強く突き動かす。浙江省の衣類加工都市・湖州市の小さな一角を撮っているだけなのに、あたかも現代世界の艱難が全部写っているかのようだ。小を以て大を看る――思い起こせばこれは、中国芸術の伝統的な十八番ではなかったか。

  • 脚本家

    北里宇一郎

    出稼ぎ労働ドキュメタリー。その人間模様をこちらはただ眺める。時として見つめる。金のために働くとはどういうことかと、考えたりもする。親しみのわく人もいれば、通り過ぎていった人もいる。強烈な感銘はないけど、じとっとまとわりついてくるものがある。いつも通りのワン・ビン映画だ。淡々の人間観察。声高じゃないけど、中国体制への批判が透けて見える。ヴェネチアの脚本賞という。構成とか編集の賞じゃないんだ。今、脚本ってどう受け止められているんだろう。考え込む。

1 - 3件表示/全3件