あいあい傘の映画専門家レビュー一覧

あいあい傘

2012年に解散した劇団東京セレソンデラックスの舞台劇を、主宰していた宅間孝行のメガホンで映画化。25年前に姿を消した父・六郎を探しに小さな田舎町に来たさつき。テキ屋の清太郎を通じ六郎の今の暮らしを知り、父の新しい家族に会いに行こうとする。主人公のさつきを「3月のライオン」の倉科カナが、彼女に恋する清太郎を「無限の住人」の市原隼人が、娘と新しい家族の間で揺れる六郎を落語家の立川談春が演じ、父と娘の人情劇を彩る。
  • 映画評論家

    北川れい子

    宅間孝行の舞台を観たことがないので映画についてしか言えないが、「くちづけ」や「同窓会」などのシビアな題材の作品はともかく、今回は、人物、背景、エピソードなど、昭和を引きずった新派ふうの人情劇で、調子が良すぎてどうも気がイカない。25年前に姿を消した父親を探しにやってくるツンケンした娘と、祭のためにこの町にきている“寅さん”仕立ての若者。田舎町や神社の風景は郷愁を誘うが、でも何やら蔵出し映画のよう。あ、近年ドラマが多い原田知世の出演は嬉しい。

  • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

    千浦僚

    細マッチョヤング寅さん(市原隼人演じるテキヤ)と「闇金ウシジマくん」の暴力金貸し業者男女が転生したよなヤンキーカップル(高橋メアリージュンとやべきょうすけ)がいるが彼らは主役でなくメインのお話は訳あって二十五年別れて暮らす父娘の再会。娘の倉科カナがメソメソしておらず別家庭をつくっていた父にキレ気味だったりしつつ引っ張る。父の相手原田知世が年齢不詳清楚女性で困惑。最後やっと対面、名乗り。定評ある舞台の作・演出者が自ら映画化。堂々王道の泣かせ。

  • 映画評論家

    松崎健夫

    映画開始から約7分の間、〈音〉はあるが〈台詞〉はない。まるで、〈言葉〉より大切な何かがあると言わんばかりなのだ。このことは、台詞過多とも思える“よくしゃべる”登場人物たちが、決定的な場面では心情の本意を〈言葉〉によって語らない点に表れている。映像と台詞というふたつの要素がスクリーンの中で融合することで、〈言葉〉として語られていることとは別の心情を感じさせているのだ。終盤の神社で、画面奥から手前へと移動する原田知世の何気ない動線の美しさに痺れる。

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