15時17分、パリ行きの映画専門家レビュー一覧

15時17分、パリ行き

クリント・イーストウッドが、2005年にパリ行きの特急列車内で起きた“タリス銃乱射事件”を映画化。8月21日、高速列車内でイスラム過激派の男が突如、自動小銃を発砲。混乱の中、犯人に立ち向かったのは、旅行中のアメリカ人の若者3人だった。主人公の若者3人組を本人が演じ、事件が起きた場所で撮影を行なうというリアリティへのこだわりが見もの。
  • 翻訳家

    篠儀直子

    イスラム教に対するキリスト教の優位を描いていると曲解されかねない危うさがあるが、それを除けば美しい青春映画。英雄的行為を行なった若者三人を本人たちが演じるという奇手に意外と不自然さがなく、しかもカリスマ性のなさがテーマに合っている。手持ちキャメラでだらだら撮られるヨーロッパ観光旅行が驚くべき楽しさで、それはそのまま、かけがえのないモラトリアム期間の輝きにほかならない。でもほんとうは、ラストシーンのあと三人がどうなったかこそが描かれるべきだと思う。

  • 映画監督

    内藤誠

    イーストウッドの演出とドロシー・ブリスカルの脚本が巧妙なのは現実にテロの場にいた3人のアメリカ人青年を登場させ、ヒーローとなる彼らが、ようやくの思いでヨーロッパ観光にやってきた平凡な大衆にすぎないことを回想場面とヴェニスやヴァチカンなどの観光旅行を丁寧に撮影して、観客に納得させていることである。東浩紀の『観光客の哲学』には、「テロリストは観光客に偽装するし、ときに観光地を襲う」と書かれていたが、そういう視点からも87歳のイーストウッドは新しい。

  • ライター

    平田裕介

    主演の3人を筆頭に、欧州での彼らの道程や事件現場となった列車にいたるまで“本物”を動員して再現を図る。10年近く“英雄たち”にこだわる御大が、そうすることで彼らの誕生の瞬間や存在意義を目の当たりにしたかったのかはわからないが、衰えぬ実験精神には感服する。とはいえ、3人の人生急転を印象づけるためだとはわかっているが、欧州旅行のダラダラを極めた描写はけっこう耐え難いものが。「ヒア アフター」程ではないが、宿命に対する御大のスピリチュアルな視点も感じる。

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