ラジオ・コバニの映画専門家レビュー一覧

ラジオ・コバニ

    ISとの戦闘で瓦礫と化した街で手作りのラジオ局を始めた大学生のドキュメンタリー。戦闘中の2014年から3年間を追った。2015年1月、IS占領下にあったシリア北部の街コバニは解放される。そんななか、大学生ディロバンは友人とラジオ局を始める。2017年コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭F:ACT賞ほか、多数の国際映画祭で受賞・ノミネート。監督は、「スナイパー・オブ・コバニ」で2016年札幌短編国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を受賞したラベー・ドスキー。
    • ライター

      石村加奈

      今もなお深刻な被害を受けている子供の眼差しで、シリア内戦を見つめたドキュメンタリー。20歳のディロヴァンが「この街のジャーナリストとしてラジオ局をやっている、あなたにとっての戦争とは?」と逆質問されるシーンに、ヒロインの素直さが表れている。ナレーションで未来の我が子に語りかける「戦争に勝者などいません。どちらも敗者です」という言葉こそ、彼女の本音だろう。しかし若さには、壊された生活を取り戻し、新しい家族を作り、その先の平和を信じる力強さがあるのだ。

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      シリアのクルド人街に響く「おはよう」のラジオ音声が、どれだけ街の人の朝を救ってきたことか。ニュースばかりでなく、詩人や女性兵士といった多彩なインタビューの人選も一つ一つ興味深い。IS(イスラム国)への抵抗という社会的意義はもちろんだが、とりわけ印象的なのは、ラジオ局を運営する女子学生たちの良きアマチュアリズムである。彼女たちの毎日の放送は、地域への愛と連帯であり、批評でもある。文化や価値観の多様性の確保でもあり、未来の希望と設計でもある。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      ISの占領下で生きる。戦闘は日常だ。そんな状況下でも、人はただ怯える日々を送っているわけではない。自分が生きるため、人々に何かを訴え、時には愉しませようと若い女性が立ちあがる。その手段はラジオ。兵器ではない。そこが胸を打つ。おびただしい死に囲まれながらも、彼女は希望を語り続ける。こういうドキュメントを観ると良いも悪いもない。ただ見つめるだけだ。監督が彼女に託した「未来のわが子へ」のメッセージ。そう、映画もまた現実を刺激しながら生きるのだろう。

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